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次に目を覚ました時、初めて外が明るいのを知った
白くて清潔なシーツの上で、沢山の包帯が巻かれ、沢山の管が付いていた
ずっと薄暗い部屋に居たせいか、眩しくて目を細めてしまう
「ぁ…あぅ…ぁ…」
異様な喉の渇きに喘ぐしかできない
口の中が粘着き、血の味がする
次の実験所は綺麗なところなんだ…
不意に思ったことに自嘲的な笑みが溢れる
「目を覚ましたのか?水だな、少し待ってろ」
低い落ち着いた声の誰か
ピョコッ揺れる黒くて大きな耳を見て、大型の狼族だとわかった
あぁ、最期はこの人に食べられるんだ…
出来たら痛くないように、一思いに殺して欲しい…
もう、痛いのも苦しいのも、ツラいから…
のど、渇いたな…
不意に口に温かくて柔らかいナニかが触れ、液体が流し込まれる
また薬かと身体が強張るも、喉の渇きには抗えずコクンと喉を鳴らして飲み干す
水が喉や胃に滲みてピリピリ痛むが、それ以上に身体が水を欲しており
「はぁ…ぁ…ぁ…」
もっとと催促するように口を少し開けて短くなった舌を差し出す
「おかわりだな。よかった、ちゃんと飲めるようで」
ボクが水を飲み込むのを見ると、安堵しているのか優しい声で答えてくれた
そして、満たされるまで何度も口移しで水を与えられる
いつぶりかわからない渇きが潤い、はぁ…と安堵の息を吐く
「しっかり飲んだな。食事は、今は無理だな…
もう少し回復しなければ…」
切長の金色の瞳がボクの顔を覗き込んで来る
真っ黒な髪と耳、ふさふさの立派な尻尾、服も何処かのお貴族様なのかすごく質の良さそうなものに見えた
「ぁうあ…ぉ…」
上手く喋ることが出来ず、喘ぐことしか出来ない
同じ、金色の瞳
魔力持ちと言われる嫌われ者
「大丈夫、ココは安全だからひとまずゆっくり休め」
目元を手で抑えられ、暗くなると落ち着く
言われるまま、目を閉じる
やっぱり、この人に食べられるのかな…
誰だろ…
フサフサの黒い尻尾が垂れ下がり、頭を抱えている人がいる
彼の見つめる先には炎が見える
子どもや女性の叫び声、怖い男性の怒鳴り声
盗賊か何かが襲って来たのか…
この人は、この光景を見て悲しむんだ…
こんな未来になって欲しくないな…
目が覚めると左の頬だけが濡れていた
残った眼から涙が出ていたらしい
悲しい嫌な夢
多分、近々現実になってしまう出来事
夢のことを言えば回避出来るかもしれない
でも、それは同時にボクがまた嫌われる事を意味していた
「おはよう。ちゃんと眠れたか?
泣いていたから、何か悲しい夢でも見たんだな…」
涙を拭うように目元を親指の腹で撫でてくれる彼
昨日会った狼族の人
あぁ、あれはこの人の未来か…
嫌な夢…人がいっぱい死んで、悲しくなる、すごく嫌な夢…
「ぁっ…あう、うぅ…」
伝えたいのに、舌を切られたせいで上手く喋れない
でも、あれはきっともうすぐ起こること…
早く伝えないと、現実になってしまうこと…
彼の服の裾を引っ張り、伝えたいことがあるのを訴える
何か言いたいことがあるのは分かっては貰えるが、どう伝えればいいのかわからない
「何か、言いたそうだが…喋れないのか…」
どうするべきなのか悩み、紙とペンを渡されるも、左手でペンを握るも利き手じゃないせいで文字がちゃんと書けない
時間をかけ、なんとか単語を並べただけのものを書き上げるも、その字は読めるようなものではなく、必死に説明しようにも言葉にできないジレンマに悲しくなる
彼は、ボクの書いた紙を見てしばらく考え
「…これは、敵かな
敵、来る、死ぬ、逃げて、で合ってるか?」
理解してもらえた事が嬉しくて、何度もウンウンと頷く
「ぁう、あ…えぇ…」
彼は少し考え、眉間に皺が寄っている
「ここに敵?が来て、人が死ぬから逃げてってことか?よくはわからないが、ありがとう。心配してくれているんだな」
意味は理解してくれたけど、伝わらない
当然といえば、当然なんだけど…
頭を撫でてくれ、また口移しで水を飲ませてくれた
水を飲むと、なんだかすぐに眠くなる
さっきもたくさん寝たはずなのに…
さっきの彼が安堵したように笑っている
よかった。さっきの悪い夢が変わったみたい
誰も死ななくて済んだのかな…
ホントに、よかった…
白くて清潔なシーツの上で、沢山の包帯が巻かれ、沢山の管が付いていた
ずっと薄暗い部屋に居たせいか、眩しくて目を細めてしまう
「ぁ…あぅ…ぁ…」
異様な喉の渇きに喘ぐしかできない
口の中が粘着き、血の味がする
次の実験所は綺麗なところなんだ…
不意に思ったことに自嘲的な笑みが溢れる
「目を覚ましたのか?水だな、少し待ってろ」
低い落ち着いた声の誰か
ピョコッ揺れる黒くて大きな耳を見て、大型の狼族だとわかった
あぁ、最期はこの人に食べられるんだ…
出来たら痛くないように、一思いに殺して欲しい…
もう、痛いのも苦しいのも、ツラいから…
のど、渇いたな…
不意に口に温かくて柔らかいナニかが触れ、液体が流し込まれる
また薬かと身体が強張るも、喉の渇きには抗えずコクンと喉を鳴らして飲み干す
水が喉や胃に滲みてピリピリ痛むが、それ以上に身体が水を欲しており
「はぁ…ぁ…ぁ…」
もっとと催促するように口を少し開けて短くなった舌を差し出す
「おかわりだな。よかった、ちゃんと飲めるようで」
ボクが水を飲み込むのを見ると、安堵しているのか優しい声で答えてくれた
そして、満たされるまで何度も口移しで水を与えられる
いつぶりかわからない渇きが潤い、はぁ…と安堵の息を吐く
「しっかり飲んだな。食事は、今は無理だな…
もう少し回復しなければ…」
切長の金色の瞳がボクの顔を覗き込んで来る
真っ黒な髪と耳、ふさふさの立派な尻尾、服も何処かのお貴族様なのかすごく質の良さそうなものに見えた
「ぁうあ…ぉ…」
上手く喋ることが出来ず、喘ぐことしか出来ない
同じ、金色の瞳
魔力持ちと言われる嫌われ者
「大丈夫、ココは安全だからひとまずゆっくり休め」
目元を手で抑えられ、暗くなると落ち着く
言われるまま、目を閉じる
やっぱり、この人に食べられるのかな…
誰だろ…
フサフサの黒い尻尾が垂れ下がり、頭を抱えている人がいる
彼の見つめる先には炎が見える
子どもや女性の叫び声、怖い男性の怒鳴り声
盗賊か何かが襲って来たのか…
この人は、この光景を見て悲しむんだ…
こんな未来になって欲しくないな…
目が覚めると左の頬だけが濡れていた
残った眼から涙が出ていたらしい
悲しい嫌な夢
多分、近々現実になってしまう出来事
夢のことを言えば回避出来るかもしれない
でも、それは同時にボクがまた嫌われる事を意味していた
「おはよう。ちゃんと眠れたか?
泣いていたから、何か悲しい夢でも見たんだな…」
涙を拭うように目元を親指の腹で撫でてくれる彼
昨日会った狼族の人
あぁ、あれはこの人の未来か…
嫌な夢…人がいっぱい死んで、悲しくなる、すごく嫌な夢…
「ぁっ…あう、うぅ…」
伝えたいのに、舌を切られたせいで上手く喋れない
でも、あれはきっともうすぐ起こること…
早く伝えないと、現実になってしまうこと…
彼の服の裾を引っ張り、伝えたいことがあるのを訴える
何か言いたいことがあるのは分かっては貰えるが、どう伝えればいいのかわからない
「何か、言いたそうだが…喋れないのか…」
どうするべきなのか悩み、紙とペンを渡されるも、左手でペンを握るも利き手じゃないせいで文字がちゃんと書けない
時間をかけ、なんとか単語を並べただけのものを書き上げるも、その字は読めるようなものではなく、必死に説明しようにも言葉にできないジレンマに悲しくなる
彼は、ボクの書いた紙を見てしばらく考え
「…これは、敵かな
敵、来る、死ぬ、逃げて、で合ってるか?」
理解してもらえた事が嬉しくて、何度もウンウンと頷く
「ぁう、あ…えぇ…」
彼は少し考え、眉間に皺が寄っている
「ここに敵?が来て、人が死ぬから逃げてってことか?よくはわからないが、ありがとう。心配してくれているんだな」
意味は理解してくれたけど、伝わらない
当然といえば、当然なんだけど…
頭を撫でてくれ、また口移しで水を飲ませてくれた
水を飲むと、なんだかすぐに眠くなる
さっきもたくさん寝たはずなのに…
さっきの彼が安堵したように笑っている
よかった。さっきの悪い夢が変わったみたい
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