【完結】野良猫Subは誰にも懐かない

ゆあ

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デート

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先日頼んでいたメガネが出来上がったらしい
オレひとりでも取りに行くくらい出来るのに、何故か颯斗ハヤトも一緒に行くと言って聞かず、無理矢理休みを作って付いてきた

「うん、やっぱり晴臣さんに似合ってますね」
ウェリントン型の多角形で、淡いグリーンのフロントにゴールドのテンプル
カジュアルに見えるものの、色もデザインもオレ好みで颯斗ハヤトがオレの為に選んでくれたモノ…


今までのメガネでも一応見えてはいたものの、度数はやはりかなり落ちており、掛けると世界がクリアに見える
「なんか、一気に世界が明るくなった気がするな…」

前のメガネはブルーカットの加工をキツめにしていたこともあり、世界が少し黄ばんで見えていた

何もかも、黄色く薄汚れたような、オレ自身を物語っているような…


「晴臣さん、そのまま掛けていきますよね。
前のは、必要ないなら処分して貰いましょうか?フレームくらいなら使えるかもしれませんが、似合ってなかったし」

颯斗ハヤトが満足そうにオレの腰に腕を回し、こめかみにキスをしてくる
こんなおっさんに何やってんだと文句を言おうと思った瞬間、ココが店内だということを思い出し、顔が熱くなってしまう

店員のお姉さんなんて、目を見開いて赤くなりながら驚いてるじゃねぇーか…
「な、仲がよろしいんですね。ご馳走様です。今日のこれからの仕事、頑張れます!」
とか、なんか意味わかんねぇーこと言い出してるし…


「ありがとうございます。俺の大切なパートナーなんです。可愛いでしょ?」
なんか、颯斗ハヤト颯斗ハヤトで嬉しそうに変なこと言ってやがるし…
店員のお姉さんも同意するように力強く頷かなくていいからっ!

「いや、違いますから。そんな関係でもないから」
オレのツッコミすら無視をして、嬉しそうに微笑みながらオレの顔を見てくる

「晴臣さん、可愛い。このままお茶して行きましょうか。
前に行けなかったカフェでもいいし、またクレープ食べに行くのもいいですね。行きたいお店があるならそっちでも、違う場所に行くのでもいいし…
今日も甘い物食べに行きますか?それとも、ちゃんとご飯系がいいですか?」

小物類を受け取ると、小さな紙袋はそのまま颯斗ハヤトに持たれてしまい、空いた手を握られ、そのまま連れて行かれる




路面に開けたテラスのあるカフェテリア
お洒落な雰囲気と甘い香り、パンの焼ける匂いについ表情が綻んでしまう
颯斗ハヤトは…、なんでオレにこんなに構うんだ?」
ランチに出てきたバジルのパンを摘みながら疑問を投げかける

少し驚いた顔を一瞬するも、すぐにいつもの余裕のある笑みを浮かべ
「晴臣さんのことが好きだからですよ。俺のパートナーは貴方しか考えられないくらい、晴臣さんに惚れてます」
恥ずかしいセリフを当然というように言ってくる

恥ずかしいような、嬉しいような…
最近、コイツに好きだと言われるのが嫌じゃない
むしろ、嬉しいって思っている自分がいて、自分の気持ちなのに戸惑ってしまう
また、誰かを好きになれるんだって
颯斗ハヤトなら信用できるって…



オレの過去を知っても、今みたいに好きになってくれるのか?



不意に自分の中にいる嫌な自分が問いかけてくる
思い出したくない、忘れようとした気持ちが湧いてくる

「オレみたいなおっさんに何言ってんだ…」
無意識に浮かれていた気持ちが、一気に冷めていく…
出来るだけ平然を装いながら、料理を口に運ぶものの、さっきまでめちゃくちゃ美味しいって思ってたのに、今は何だか味がわからない


オレなんて、何を食べても、生きてても仕方ないのに…


「晴臣さん、25でしょ?俺とは5つしか変わらないし、何より、こんな可愛い顔でおじさんなんて言われたら、他の人が可哀想ですよ」
颯斗ハヤトはそんなオレの様子など気にせずに、愛おしげに見詰めてくる
不意に、唇の横を人差し指で拭われ

「晴臣さんは可愛いですよ。今すぐ帰って、食べたくなるくらい…うん、こっちのソースも美味しいですね」
指で拭き取ったソースをペロッと舐め取る口につい目がいってしまう


「……ば、バカなこと言ってんな…」
その仕草や視線が、どことなくいつもSEXしている時に見る顔と重なってしまい、顔が熱くてまともに颯斗ハヤトを見ることができない
オレのそんな気持ちを誤魔化すように、パンに齧り付きながら顔を逸らした



ヴーヴーヴー



低いバイブ音が響き、颯斗ハヤトのスマホが震えている

「ごめん、ちょっと電話してくる。晴臣さんはデザートが来たらゆっくり食べて待ってて
俺の分も食べたかったら食べてくれていいので」

スマホを持って小走りで離れていく颯斗ハヤトの背を見送り、つい溜息が漏れてしまう

「一緒に食いたかったのに…すぐ帰って来いよ、バカ…」


程なく持って来られた季節のタルトには色とりどりの鮮やかなフルーツが宝石のようにキラキラ輝きながら載っている
「うっわぁ~、マジで美味そう!」
目を輝かせながら置かれたケーキを見つめる

チラッと颯斗ハヤトの走って行った方を見るも、姿は見えず、少し寂しい気持ちになりながらもケーキに手を付けていく

フルーツの瑞々しさと自然な甘さについ頬が弛む
「うまぁ…これ、あいつも早く食えばいいのに
帰りにお土産用にもいくつか買って貰おう」





「凪…?」
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