【完結】野良猫Subは誰にも懐かない

ゆあ

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待機

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広くて綺麗な浴室
大きな窓があり、そこからは温かな光と外の景色が広がっている
「やっぱ、ラブホじゃないからすっげぇーなぁ…」

贅沢に浴槽いっぱいにお湯を張り、その中に身体を沈める
溢れ出る湯を見て、未だに状況が飲み込めずボーっとしてしまう
窓の外に広がる景色を眺め、凝り固まった身体を解すようにぐぅーっと伸びをしてから、浴槽の縁に頭を預けて全身を湯船に沈める


昨晩は、今まで感じたことがないくらい良かった
初めてSub Spaceになってしまうほどに、何もかもをアイツに委ね、支配される感覚
Subとして、心も身体も満たされていく感覚
Sub Spaceの状態がこんなに身体を満たしてくれるんだと初めて知った


Sub Dropに陥されるか、Domの欲望ばかりを満たす為のPlayしかしたことのない身体には、甘い毒のようにも感じた


今まで感じたことがない程、体調も良く、精神的な怠さも今は消えている

これが、ちゃんとしたDomとのPlayだと言われると、ある意味納得してしまう
SubはDomが居ないと生きてはいけない存在だということを実感させられた




昔みたいに第二性の性検査ダイナミクスによる差別は減ったものの、完全に無くなったとは言えない

Subだとバレれば就職で冷遇されたりはするものの、ちゃんとSubの就職支援などもあるし、社会的な補償もされている
学校でも第二性の性ダイナミクスについての勉強もされる
第二性の性ダイナミクスによるイジメはニュースでも取り上げられるし、非難もされる


表向きには、そうなっている
差別なんてない
全ての人が平等で、Subでも安心して暮らしていける
Sub専用やDom専用のPlayサービスの店もあるから、パートナーを無理に作らなくても問題ない

そんな性別の差別のない社会



でも、根底では人は変わらない


優秀な遺伝子を持った、人の上に立つ者が多いDom
人生の勝ち組、強者
人はみんなDomに憧れを持ち、Domに魅入られる


Subは優秀なDomに縋らなければ、体調すら満足に管理出来ない出来損ない
Domのお荷物であって、社会の底辺
Domの、性奴隷、慰みモノ、玩具


心の中では誰もが思っていること

どれも間違ってないと思う
オレ自身が実感してるし、事実だと思う


DomでもSubでもないNormalが大半なのだから仕方ない
DomとSubが極端に少ないだけだ


DomとPlayをしていないSubは体調不良に陥るし、最悪の場合は死ぬこともある

だから、オレはずっとDomを避け続けていた
Subだとバレないようにして、万が一遭遇してもPlayなんてやらない

死なせて貰えるのを、ただ待っていたのに…




いつも通り、風呂に入ったら出て行くつもりだったのに、何故かその気にならない
「迎えにって、来るわけないのに…何期待してんだか…」
自分に言い聞かせるように呟くも、彼の顔が頭から離れなかった


昨晩は、本当に久しぶりに身体が満たされた
Playも行為も…
自分からDomを避け続けていたのに…
心も、身体も満たされた…


「あ、アイツが戻って来ないとここの支払い出来ないから…昨晩のも、金置いてなかったし…それ受け取ったら、今日の寝床探し行く、だけ…」
自分に言い訳するような呟き、少し熱めのシャワーのお湯を頭から被る


もう誰も信用なんてしない
誰にも心を許さない

行く場所なんて、帰る場所なんて、初めからないくせに…




久々にゆっくり湯船に浸かったおかげでスッキリした
着替えは、また汚れた服を着るのはなんとなく躊躇してしまい、バスローブだけを羽織る


夕方、アイツが戻って来たら着替えて出て行こう
それか、チェックアウトの時間までは…

「良い子で居たら、褒めて貰えるのか…」
無意識にポツリと出た言葉に自分でも驚く

もう誰も信用なんてしない…

自分の呟きを否定するように頭を横に振り、ベッドにダイブする

「なしなしなしなしっ!!!め、飯食おう!ルームサービス勝手に注文してやる!」
備え付けの受話器を取り、適当に料理を注文してみる
部屋番号を確認し、程なく運ばれてくることに多少不安が募る

これ、支払い出来なかったらどうすんだろ…
身体で…ってのは無理だよな…

一礼して出て行くスタッフに引き攣った笑みを向け、並べられた美味しそうな料理に唾を飲み込む

と、とりあえず、食おう
せっかく作ってくれたんだし、アイツも好きにルームサービス頼んで良いって言ってたし…

頼んでいたサンドイッチや唐揚げは本当に美味しかった
満腹になるまで食べて、またベッドでゴロゴロして、いつもより時間が経つのがゆっくり感じる

彼が戻って来てくれるのを期待してしまっている




いつの間にかまた寝てしまったせいで、起きた時には部屋が夕日で紅く染まっていた
「晴臣さん、おはよう?おそようが正しいのかな?よく寝てたね」
オレの頭を優しく撫で、額に口付けを落としてくる

まだ少し寝惚けているのか、彼が居ることに頭が追いつかない

こういう奴をイケメンって言うんだろうな…
とぼんやりした頭で考えてしまう

「寝起きのところ悪いんだけど、そろそろ移動したいから起きて欲しいな
それとも、ちゃんとキスしないとお姫様は起きてくれないのかな」
彼のキザな台詞に、徐々に寝惚けていた頭が覚醒していき、顔が引き攣る
「うっせぇー、バーカ」


彼から距離を取る為にベッドから抜け出し、元々着ていた服を探すように室内を見渡す

ベッドの下や浴室を見ても見当たらず、バスローブしか着ていない状況に青褪めていくのが自分でもわかる

「あ、服はとりあえずソファーに置いた分を着て下さい
着て来たのはクリーニングに出しちゃったので、後日部屋に送って貰うんで」
何かレポートを読んでいる彼に言われ、ソファーを見る
明らかに買ってきたばかりの新品の綺麗な服
シンプルなワイシャツと黒の細身のジーンズに着替えるも、気持ち悪いくらいピッタリで
「なんで…」

「さて、行きましょうか
支払いは済んでるんで、忘れ物がないように確認だけして下さい」



ホテルを出たら終わりだと思っていただけに、何処に連れて行かれるのかと不安になる

まぁ、何処に連れて行かれても一緒か…
野宿するのか、この時間から相手を探すのか、コイツに着いて行くのも変わらない
ただ、今晩も昨晩のように満たして貰えるのではと期待している自分がいた…
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