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第五章

76.旅は道連れ世は情け

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「なぁ、あんたこの前の客じゃないか?」
 知らない男性に声を掛けられ、内心心臓が飛び出そうな程驚くも、表情に出すことができなかった。
 ビックリし過ぎると無表情になるってよりも、最近表情が乏しくなってしまっただけだと思うけど……

 声を掛けてきたのは、4人組の冒険者のようだ。
 無精ひげを生やし、オールバックに髪を縛った細身の男。
 屈強な体つきの赤い虎のような獣人。
 太った感じだけど、背中に大きなハンマーを背負った男。
 くすんだ灰色の髪に、赤い目をした背の高い男の4人組だった。

 相手は俺のことを知っているみたいだけど、俺には全く記憶にない。
 冒険者の知り合いなんて、あの2人しかいなかったし……
 っというか、あの2人も冒険者をしていたことは教えてくれなかったから、実質0人だよな……

 2人のことを思い出すと、胸の奥が痛い。
 今頃どうしてるんだろ?
 面倒な奴がいなくなったからホッとしてるかな?
 役目を果たさず逃げたって怒ってるかな?
 俺のことなんてさっさと忘れて、結婚式の準備に忙しいのかも……

「あんた、『プリスヴィル』の乗り合い馬車に乗っていた客のひとりだろ?」
 くすんだ灰色の髪をした男がニヤっと笑みを浮かべて言ってきた。
「オレたちはその馬車の護衛をしていたんだ。一緒に旅をしたっていうのに、薄情な奴だなぁ~」
 揶揄うようにケラケラ笑いながら言われ、なんとなくぼんやりとだけど思い出してきた。

 うん。たしかこんな人たちが護衛をしていた気がする。
 でも、覚えてないや……
 一緒に乗っていた乗客の顔すら、覚えていない。
 誰ともかかわりあいになりたくないって思ってしまったから……

「なぁ、あんたも『ルィンヘン』に行きたいんだろ?」
『ルィンヘン』って、たしか次の乗り合い馬車が出てるって言ってた町だっけ……
 最終目的地は違うけど、そこは大事な通り道だよな……
「そうですね。森を抜けれたら早いらしいけど、俺ひとりでも抜けれるものなのかな」
 無理だって言われても、止めれないけど……
 こういう人たちが一緒なら、すんなり森だって抜けれるのかな?

「あの……もし良かったらでいいので、『ルィンヘン』まで俺も一緒に連れて行ってくれませんか?お金は、あんまり持ってないから、少しくらいしか出せないんだけど……」
 ダメもとで一応お願いしてみる。
 俺みたいな足手纏い、断られても仕方ないんだけど、もし連れて行って貰えるお礼はしようと思う。
 これから先のことを考えると、お礼で渡せるのは金貨1枚か2枚くらいだけど、これだけじゃ足りないかな?

 ダメ元でのお願いだったから、断られるって思っていたのに、彼の返事は違うものだった。
「全然いいぜ!なぁ、みんなもいいよな?」
 くすんだ灰色の髪の男がサラッと了承してくれる。
 しかも、他のメンバーもニコニコと笑みを浮かべていたり、うんうん。と頷いてくれている。
「え?ホントに?いいの?」
 絶対に断られると思っていただけに、目を見開いて驚いてしまった。

「あんたひとりで森を抜けるなんて自殺行為でしかないからな?それに、あんただろ?『プリスヴィル』で回復魔法を使ってくれる”聖女”ちゃんって」
 サムズアップしながら、パチンッと全く似合わないウィンクをしてくる。

 ん?何のことだ?
 聞いたこともない話をいきなり言い出したぞ?
 ってか、俺が”聖女”ってことがなんかバレてない?
 まぁ、俺の場合は一応が付く”聖女”だけど……
 そもそも男に”聖女”ってのもおかしな話だけど……

「多少なりとも回復魔法を使える奴がいてくれると、オレらも助かるんだわ。な?一緒に行こうぜ?」
 そう言って手を差し伸べてくれる。
 ニッカリと爽やかっぽい笑みを浮かべているはずなのに、前歯が出ている三枚目な感じの顔だから全く似合わない。
 ルイミヤが同じようにしてきたら、見惚れるくらいカッコいいのに……

 まぁ、ルイミヤは王子様だったし別格だよな。
 比べてやるのは失礼でしかないと思う。

 うん。でも、多分いい人なんだと思う。
 ちょっと悪党っぽい顔立ちをしている人だけど、乗り合い馬車の護衛もしてくれていたし、馬車の人とも顔見知りっぽかったから……

「じゃあ、お言葉に甘えて……。あの、足手纏いだと思いますが、よろしくお願いします!」
 彼の手をしっかりと両手で握り返し、少しだけ笑みを向ける。
 なんか、彼の顔がちょっとだけ赤くなったような気がしたけど、多分気のせいだと思う。

「と、とりあえず、今日はここで休もうぜ。森に入るのは明日からでいいだろ!」
「はいはい。ダリオンは恥ずかしがり屋でちゅね~」
 くすんだ灰色の髪をした男は、仲間内になんか揶揄われていたけど、楽しそうだった。
 仲の良い、良いパーティーなんだと思う。


 その日の晩、久しぶりに人と一緒に食事を取った。
 彼ら【シャドウファング】の面々は、『プリスヴィル』を中心に冒険をしているベテランらしい。

 細身で、無精ひげを生やしたオールバックの人が、カイラン。
 盗賊シーフの職業で、鍵開けとか罠の解除が得意らしい。

 赤い虎の獣人で、闘士のルガル。
 近接戦闘が得意なんだって。

 背中に大きなハンマーを背負っていた、ちょっとぽっちゃりのおっちゃんはボルクさん。
 元鍛冶職人で戦士だって言うからびっくりだよな。
 ハンマーをちょっとだけ持たせて貰ったけど、俺じゃ持ち上げることすら出来なかった。

 最後は、くすんだ灰色の髪色に、赤い目をした背の高いリーダーのダリオン。
 剣士をしているって言ってた。
 なんか、ちょっとだけ誰かを思い出すけど、顔を見たら似ても似つかない。

 みんな、俺なんかにも優しくしてくれて、本当にいい人たちなんだと思った。
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感想 25

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みんなの感想(25件)

金浦桃多
2025.01.09 金浦桃多
ネタバレ含む
解除
ぴにゃの
2025.01.05 ぴにゃの
ネタバレ含む
ゆあ
2025.01.06 ゆあ

ぴにゃの様、感想を書いてくださりありがとうございます。
本当にそうですよね〜
しかも1人は王子様って、護衛はアンタがいるでしょ!ってツッコミたくなっちゃいます。
ただ、マコは異世界召喚された一般人なので、感覚がやっぱり普通の人なんですよ。
護衛いなきゃ出ちゃダメって感覚皆無な危機感ゼロのおバカなんです。<(´⌯ ̫⌯`)>
このままどうなることやら……

解除
金浦桃多
2025.01.05 金浦桃多
ネタバレ含む
ゆあ
2025.01.06 ゆあ

ももたん、明けましておめでとうございます。
今年も初っ端から感想ありがとうございます。

(˶‾᷄ ⁻̫ ‾᷅˵)ニヤニヤ謎の彼の正体はまだもうちょっと先になるけど、ちゃんと伏線回収できるようにがんばる!
マコはダメなところがいっぱい出ちゃって一人旅始めちゃって…
これからまた大変モード

解除

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