73 / 74
第五章
72.乗り合い馬車
しおりを挟む
まだ夜明け前のせいか、外は真っ暗だった。
夜風が冷たく、フード次のクロークを着ていないと寒くて風邪を引いていたかもしれない。
乗り合い馬車の客は、俺を含めて8人だった。
行商人らしいおじさんに、若夫婦と子ども2人の4人家族、30代半ばくらいの女性と10代の少年が1人。
それから、乗り合い馬車の護衛をしてくれる冒険者っぽい人たちが4人。
ガラが悪そうな人たちだったけど、腕はタツのだろうか、乗り合い馬車の人とは顔見知りのようだった。
「ひとり旅かい?」
行商人らしきおじさんが声を掛けてくれたけど、今の俺には愛嬌を振り撒く余裕なんてなかった。
ただ、無難そうな笑みを浮かべ、適当に相槌を打つ。
ひとりでベラベラと喋っているおじさんの声をBGMに、ボーっとホロの隙間から見える外を眺めていた。
さっきまでいた街が遠ざかって行くと共に、胸の奥にぽっかりと穴が空いてしまったような気持ちになる。
「――竜王国は、次期王を選定中らしい。魔国は新しい魔王になって3年経つが、素晴らしい発展を遂げているそうだ。私もいつかは行ってみたいものですなぁ~」
ペラペラと笑いながら喋っているおじさんを横目に、小さく息を吐き出し、目を閉じる。
今は誰とも話したくない。
何も聞きたくないし、何もやりたくない。
俺が寝てしまったんだと思ったのか、おじさんは別の人と話しをしに行った。
ガタン、ゴトンと揺れる馬車の荷台で、俺はクロークに包まれ、壁に寄りかかったまま眠った。
途中、何度か休憩があったり、飯時だったりで、馬車は停車する。
みんな、気晴らしがてら外に出て行っているようだったけど、俺はそのまま小さくうずくまって座っていた。
「お兄さん、何処へ行くんだい?」
「こっちで一緒にメシを食おう」
「焚き火の近くにおいで」
客同士、みんな仲良くしているのか、俺なんかにも声を掛けてくれる。
「ありがとうございます。でも、俺はココでいいので……」
何度も誘ってくれたけど、毎回丁寧に断ってひとり、荷台の奥で静かに過ごした。
食欲は全然湧かない。
食べなきゃ旅を続けられないって思いから、黒パンと干し肉を少しだけ齧って食事にする。
塩辛いはずの干し肉なのに、全く味がしない。
黒パンもただの堅い食感しか感じられず、数口食べた後、アイテムボックスへと戻した。
夜はひとりクロークと毛布に包まれて眠る。
邪魔にならないように、手足を折り畳んで、小さく縮こまって眠った。
護衛をしてくれている冒険者の人たちの焚き火が、ホロの隙間から垣間見える。
「……アイツ……着いたら……」
「バレないだろ……」
「…………大丈夫だ」
何か話している声は聞こえるけど、内容まではわからない。
目を閉じると、2人の顔が浮かんできて、胸がギュッと苦しくなる。
「……もう、手紙読んだかな?ビックリ、してるかな……?」
誰にも聞こえない、小さな声で呟き、そのまま眠りについた。
道中、何度か魔物に襲われた。
ゴブリンとかオオカミっぽい魔物だったけど、護衛をしている冒険者が危なげなく討伐していた。
乗り合い馬車に乗って4日目。
今日は、順調に進むことが出来れば、村に寄って宿を取ることができるらしい。
宿屋はひとり銀貨2枚の格安宿。
食事は付かないが、ベッドで寝られるとみんな喜んでいた。
俺は、これからのことを考えて、宿に泊まる旅費を押さえたかったから、荷台に残ることを選んだ。
路銀がいつまで足りるのかわからない。
回復魔法を使って、収入を得ることは出来るだろうけど、町に着くまでは難しいから……
商人のおじさんが一緒の部屋に泊まるなら少し出してくれるって言ってくれたけど、丁寧に断った。
この世界、知らない人を信用なんてできない。
犯されるだけならいいけど、財布を盗まれたり、殺されたりするのは困るから……
俺みたいな無知なヤツは、良いカモでしかないだろうから……
自分の身は、自分で守らないといけないって、知ったばかりだしね。
もうすぐ次の町に着けるはず。
次の町に着いたら、ちょっとだけ休憩しよう。
乗り合い馬車の中では、こっそりとしか回復魔法を使えないから、全身が痛い。
馬車の振動って、結構キツいんだって知った。
短い距離とか短時間なら楽しめるかもしれないけど、長距離になるとかなりツラい。
日本みたいに道が舗装されていないのも一つの要因だろうけど……
気兼ねなく回復魔法を使うことができたらマシなのかもしれない。
この人たちは優しくていい人なのかもしれないけど、もしかしたらウソかもしれないし……
回復魔法を掛けて欲しいって言われて、断る自信がないからバレたくない。
毎日気を張っているせいか、寝ているはずなのに、眠りが浅くて頭が痛い。
こんなので、本当に魔王のところまで行けるのかな……
次の町から先は、同じような乗り合い馬車があるのかも確認しなきゃ……
乗り合い馬車に乗って、7日目。
無事に目的の町、ゼフィラに到着することができた。
夜風が冷たく、フード次のクロークを着ていないと寒くて風邪を引いていたかもしれない。
乗り合い馬車の客は、俺を含めて8人だった。
行商人らしいおじさんに、若夫婦と子ども2人の4人家族、30代半ばくらいの女性と10代の少年が1人。
それから、乗り合い馬車の護衛をしてくれる冒険者っぽい人たちが4人。
ガラが悪そうな人たちだったけど、腕はタツのだろうか、乗り合い馬車の人とは顔見知りのようだった。
「ひとり旅かい?」
行商人らしきおじさんが声を掛けてくれたけど、今の俺には愛嬌を振り撒く余裕なんてなかった。
ただ、無難そうな笑みを浮かべ、適当に相槌を打つ。
ひとりでベラベラと喋っているおじさんの声をBGMに、ボーっとホロの隙間から見える外を眺めていた。
さっきまでいた街が遠ざかって行くと共に、胸の奥にぽっかりと穴が空いてしまったような気持ちになる。
「――竜王国は、次期王を選定中らしい。魔国は新しい魔王になって3年経つが、素晴らしい発展を遂げているそうだ。私もいつかは行ってみたいものですなぁ~」
ペラペラと笑いながら喋っているおじさんを横目に、小さく息を吐き出し、目を閉じる。
今は誰とも話したくない。
何も聞きたくないし、何もやりたくない。
俺が寝てしまったんだと思ったのか、おじさんは別の人と話しをしに行った。
ガタン、ゴトンと揺れる馬車の荷台で、俺はクロークに包まれ、壁に寄りかかったまま眠った。
途中、何度か休憩があったり、飯時だったりで、馬車は停車する。
みんな、気晴らしがてら外に出て行っているようだったけど、俺はそのまま小さくうずくまって座っていた。
「お兄さん、何処へ行くんだい?」
「こっちで一緒にメシを食おう」
「焚き火の近くにおいで」
客同士、みんな仲良くしているのか、俺なんかにも声を掛けてくれる。
「ありがとうございます。でも、俺はココでいいので……」
何度も誘ってくれたけど、毎回丁寧に断ってひとり、荷台の奥で静かに過ごした。
食欲は全然湧かない。
食べなきゃ旅を続けられないって思いから、黒パンと干し肉を少しだけ齧って食事にする。
塩辛いはずの干し肉なのに、全く味がしない。
黒パンもただの堅い食感しか感じられず、数口食べた後、アイテムボックスへと戻した。
夜はひとりクロークと毛布に包まれて眠る。
邪魔にならないように、手足を折り畳んで、小さく縮こまって眠った。
護衛をしてくれている冒険者の人たちの焚き火が、ホロの隙間から垣間見える。
「……アイツ……着いたら……」
「バレないだろ……」
「…………大丈夫だ」
何か話している声は聞こえるけど、内容まではわからない。
目を閉じると、2人の顔が浮かんできて、胸がギュッと苦しくなる。
「……もう、手紙読んだかな?ビックリ、してるかな……?」
誰にも聞こえない、小さな声で呟き、そのまま眠りについた。
道中、何度か魔物に襲われた。
ゴブリンとかオオカミっぽい魔物だったけど、護衛をしている冒険者が危なげなく討伐していた。
乗り合い馬車に乗って4日目。
今日は、順調に進むことが出来れば、村に寄って宿を取ることができるらしい。
宿屋はひとり銀貨2枚の格安宿。
食事は付かないが、ベッドで寝られるとみんな喜んでいた。
俺は、これからのことを考えて、宿に泊まる旅費を押さえたかったから、荷台に残ることを選んだ。
路銀がいつまで足りるのかわからない。
回復魔法を使って、収入を得ることは出来るだろうけど、町に着くまでは難しいから……
商人のおじさんが一緒の部屋に泊まるなら少し出してくれるって言ってくれたけど、丁寧に断った。
この世界、知らない人を信用なんてできない。
犯されるだけならいいけど、財布を盗まれたり、殺されたりするのは困るから……
俺みたいな無知なヤツは、良いカモでしかないだろうから……
自分の身は、自分で守らないといけないって、知ったばかりだしね。
もうすぐ次の町に着けるはず。
次の町に着いたら、ちょっとだけ休憩しよう。
乗り合い馬車の中では、こっそりとしか回復魔法を使えないから、全身が痛い。
馬車の振動って、結構キツいんだって知った。
短い距離とか短時間なら楽しめるかもしれないけど、長距離になるとかなりツラい。
日本みたいに道が舗装されていないのも一つの要因だろうけど……
気兼ねなく回復魔法を使うことができたらマシなのかもしれない。
この人たちは優しくていい人なのかもしれないけど、もしかしたらウソかもしれないし……
回復魔法を掛けて欲しいって言われて、断る自信がないからバレたくない。
毎日気を張っているせいか、寝ているはずなのに、眠りが浅くて頭が痛い。
こんなので、本当に魔王のところまで行けるのかな……
次の町から先は、同じような乗り合い馬車があるのかも確認しなきゃ……
乗り合い馬車に乗って、7日目。
無事に目的の町、ゼフィラに到着することができた。
82
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる