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第三章

51.お疲れ自分

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 あの後も、偉そうな態度のでっかい猫はしつこく謝罪を求めてきた。
 最後は、コロリに怒られて、耳も尻尾もペタンと下がってションボリしていた。
 うん。コロリ、そのまま良い子で強く育って欲しい。

 子どもたちと別れた後、俺はひとり、宿屋に戻った。
 外は夕陽に照らされて世界がオレンジ色に染まっている。
 家々にほのかな明かりが灯っていて、楽し気な声が聞こえてくる。
 夕食時なのか、美味しそうな匂いも漂ってきて、お腹が微かにきゅ~っと鳴り、空腹を訴えてくる。
「ルイミヤとリークフリードさん、もう帰って来てるかな?」

 早く戻って、今日のことを色々と話したい。
 俺ひとりで買い物をしたことや美味しかった店とか料理のこと。
 気になったお店とか、今日ピッコロの言っていた他の国のこと。
 子どもたちの話も色々したい。
 初めてこの街で知り合いができた。
 この街で将来住むならどこら辺がおすすめとかも教えてくれるかな?
 あ、でも、2人は王都に居るのが普通だから、こっちのことはそこまで詳しくは知らないかな?

 あと、初めて見たしゃべる魔物のペットのこと。
 ってか、やっぱりペットも魔物なんだってことが驚きだよな。
 しかも、あんなでっかい山猫を子どもが飼ってるんだから……
 え?普通なのかな?それとも、コロリが特殊だったりする?

 他にもしゃべる魔物って他にもいるのかな?
 2人は見たことあるのかも教えて欲しい。
 ホント、俺……2人のこと全然知らなかったんだって思えたから……
 だから、教えて欲しい。
 たくさん、たくさん……2人のことを話して欲しいし、俺も色々と話したいことがある。

「リークフリードさんは、俺とは話したくないかもしれないけど、いつか仲良くなってくれるかな……。ルイミヤは、聞いたら色々教えてくれそう」
 2人のことを考えているだけで、疲れているはずなのに楽しくなってくる。
 今は早く帰って、あの二人に会いたくて仕方ない。
 会って、色々話しをしたい。

 宿屋に戻ったころには、辺りはすっかり暗くなっていた。
 相変わらず大きな木製の門は豪華すぎて威圧感を感じるけど、気にしないようにしてそそくさと中に入る。

 広いエントランスには、相変わらず煌びやかな人たちが大勢いた。
 多分、どこかのお貴族様なんだろうな……

 そんな人たちに見つからないように、こっそりすり抜けて階段へと向かう。
 俺とルイミヤが止まっている部屋は、この宿屋の一番上。
 4階のフロアにたった2部屋しかない部屋の1室。

 別にやましい事は一切ないんだけど……
 俺だって、ここの宿泊客だし、お金も払っているから堂々としていればいいんだけど、なんとなく気が引けてしまう。
 まぁ、王様から貰ったお金で俺が稼いだわけじゃないけど……
 あと、ここの部屋を取っている理由は、リークフリードさんがルイミヤを下手な安い宿屋に泊らせたくないって、心配したからだろうけど……

 本当に、俺は悪い事なんて一切してないんだから、堂々としていればいいよね。
 ここの宿、ご飯も美味しいし、ベッドもふかふかだから気に入っているし……
 うん。これ以上考えるのは止めとこう。
 明日までの滞在予定だし……
 次はいつ、こんな豪華な場所で寝られるのかわからないから、今は堪能する方にシフトしよう。

 ん~、ルイミヤ、もう帰って来てるかな?

 一際豪奢な部屋の扉を開き、静かに中を覗き込む。
 先に帰って来ているはずの恋人が、心配そうに出迎えてくれる想像をして、つい頬が緩んでしまう。

 ルイミヤ、心配してるかな?
 俺、ちゃんとひとりで買い物してきたよ。
 って、俺の方が大人なんだから当然なんだけど……

 ルイミヤ、疲れてないかな?
 伯爵に嫌なこと言われてない?
 今夜も昨日みたいな顔をしてたら、めいいっぱい甘えさせてやろう。
 明日は最後の休息日だから、部屋でゆっくりできるし……
 また、ルイミヤが満足するまで甘えさせてやろう。

 あ、でもお風呂の中でヤるのは禁止しよう……
 また逆上せるのも嫌だし……
 ってか、俺がルイミヤを甘やかしたいから、今晩は俺がいっぱいご奉仕してやるのとかどうかな?
 ご奉仕って言ったらメイドさんとか?
 ルイミヤ、本物の王子様だからそれだと面白くないのかな?
 ん~……汚れたりセット崩れるのは嫌だけど、コスプレ姿でやるのはどうだろ?
 ルイミヤ、俺の騎士王のコスプレ姿大好きだし……俺もちょっとだけやりたいかも。

「……って、あれ?」
 帰りが遅くなってしまった俺を心配して、猫耳が垂れてしょげているルイミヤを想像していたのに、俺の予想は外れていた。

 部屋は昼過ぎに俺が出て行った時のままで、ベッドだけが綺麗にリメイクされていた。
 浴室を覗いても、ベランダに出てみても、ルイミヤの姿は見付からない。

 リークフリードさんの部屋に行ってるのかな?って思って、部屋を訪ねてみたけど、リークフリードさんもまだ帰って来ていないようだった。
「……2人とも、まだ帰ってないんだ……」
 夕食を一緒に食べようと待っていたけど、帰って来る気配がしない。
 仕方なくひとりで夕食を食べに、食堂に行ったけど、ほとんど残してしまった。
 豪華で美味しいはずのご飯だったのに、なんか味気なく感じてしまって……。
 ひとりって、こんなに寂しかったっけ?って、思ってしまった。

 ◇ ◇ ◇

 部屋の窓際に座って、2人が帰って来るのをずっと眺めて待っていた。
 夜風が冷たかったけど、シーツを頭から被って暖を取って待った。
 でも、ずっと待っていたけど、ルイミヤは帰って来なかった。
 遅い時間にリークフリードさんが帰って来たのがわかったけど、ルイミヤは一緒じゃなかった。

「なんだよ……伯爵とは不仲じゃなかったのかよ……」
 ひとり、広いベッドに寝転がりながら文句を口にする。
 ベッドが広すぎて、端から端までゴロゴロ転がってもまだ余裕がある、大きすぎるベッド。

「ルイ……いつ帰ってくんだろ……」
 伯爵の言ってた”ティアラローズ”さんと話しが盛り上がったのかな?
 思ってたより、楽しめた?

 俺も、色々話したいのに……

 ひとりでゴロゴロしていると、ゆっくり瞼が落ちていく。
 今日はいっぱい歩き回って、色んな事があり過ぎて疲れていたから……

 だから、ルイミヤが帰って来るのを待つことが出来なった。

 でも、俺が寝落ちてしまったあとも、ルイミヤは帰って来なかった。
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