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第三章

46.賑やか3人組

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なんやかんやで、欲しかったものは全部買えたと思う。
指折り数えながら、予定していたものに抜けがないかを確認し、やっと一息つくことが出来た。

屋台でジュースっぽいモノを買って、階段に腰掛けて休憩する。
ひとりでも、問題はない。
買い物はちゃんと出来たし、こうやって街に溶け込むことだって出来ている。

「元の世界では、これが俺にとっての普通だったんだけどな……」
行き交う人を眺めながら、無意識にポツリと呟いてしまう。
広場の近くの階段に座っていても、誰も気にする人なんていない。
日本でこんなことやっていたら迷惑がられるかもしれないけど、ここは異世界だしね。
むしろ、他にも同じようにゆっくり座って何か食べてる人までいるし……

日本に居た頃は、平日は社畜として働き、休みの日は最低限の買い物と衣装作りとオタク活動に勤しんでいた。
まぁ、月に何回かはマキと一緒に、コスプレイベントに参加したり、スタジオに行ったりしていたんだけど……

でも、基本的に一人で過ごすのが当たり前の生活だった。
実家には、長期休みには帰っていたけど、一人暮らしも結構長いからひとりでいることには慣れてる。

そんな俺が、異世界召喚なんて漫画やアニメみたいなことに巻き込まれてさ……
しかも、この国の第三王子様と聖騎士団団長様と一緒に、魔王に会うための旅に出るなんて、誰が想像できるよ。
毎日誰かと一緒に居ることが当たり前になってるなんてな……
リークフリードさんにはお小言を言われちゃうけど、ルイミヤがそれ以上に甘やかしてくれる。
まぁ、時々は俺の方がルイミヤのことを甘く包み込んであげてるんだけどな。
でも……、ホントこうやって一人で居るのが、『寂しい』なんて思う日が来るとは思ってもいなかった。


「お兄ちゃん待ってよ~」
「コロリ、おせぇーぞ!早く来い!」
「ジャジャマル君危ないですって。コロリ、ゆっくりですよ。ゆ~っくり」

人が感傷に浸っているのに、さっきから何やら騒がしい。

「あ、お兄ちゃん危ない!?」
「ジャジャマル君、前!前見てっ!!」
「え?って、うわぁあっ!!?」

少年少女の声が真後ろで聞こえてきた瞬間、俺の背に衝撃が走り、頭上を一人の少年が飛ぶ。
地面をゴロゴロと転がってコケた少年と、その少年を心配そうに追いかける小柄な少年と少女。

俺はぶつかられた衝撃で、木のコップを落としてしまい、まだ残っていたジュースをぶちまけ、痛みに悶絶していた。
「ッ!!イッテェー……って、おい、大丈夫か?」

勢いよく転がって行ったと思う少年を心配しつつ、ぶつかられた背中が地味に痛い。
「ホント、気を付けろよ。怪我とかしてないか?」

3人の中では一番体格の良さそうな少年。
多分、13歳くらいかな?
腰に木でできた剣を付け、赤茶色の髪に鼻には白いテープみたいなのが付いている。
うん。めっちゃガキ大将って感じの少年。

その少年を心配そうに見ている、10歳くらいの女の子。
兄妹なのか、少年と同じ赤茶色の髪をしていて耳の後ろで二つくくりにしている。
おっとりした顔立ちの可愛らしい女の子だ。

もう一人はひょろっとした細身の少年。
二人よりちょっと良いところの子なのか、服装が少しだけ違う。
グレーの髪を後ろでちょろっと縛っているけど、その縛っている紐に小さな宝石の飾りがついている。

「へ、平気だし!このジャジャマルさまがこんなんで泣くわけないだろ!」
目の端に涙を溜めながらも強がるガキ大将少年。
でも、膝小僧にはガッツリ擦り傷が出来ていて痛々しい。

「ホントに大丈夫か?」
頬杖を付きつつ、少し呆れたように聞いてみると、少年は強がったように両腕を腰に当ててフンッ!とポーズを取っている。
「オレさまはジャジャマル!この国一番の冒険者になる男だ!」
「僕はピッコロです」
「コロリだよ~」
ジャジャマルと言った短髪ガキ大将少年を中心に、他の2人もポーズを取って自己紹介してくれる。

「似非にこ×2、ぷんにこにこ、ぷんかよ……」
呆れ顔でつい元の世界ネタのツッコミを入れてしまう。
「誰が似非にこ×2、ぷんにこにこ、ぷんだ!オレさま達は『雷鳴の不死鳥フェニックス』っていうカッコいいチーム名があるんだ!」
地団駄を踏んで、怒っているジャジャマルを余所に、コロリと言っていた女の子は目をキラキラと輝かせている。
にこ×2、ぷんにこにこ、ぷん、そっちの方が可愛くてコロリ好きだな~」

なんだろ?名前的には似非にこ×2、ぷんにこにこ、ぷんなんだけど、こいつらを見てると何か違う作品を思い出す。

「はいはい。痛くないだろうけど、そのままほっといて悪化するとダメだから治療してやるよ」
こっちに来いという様に、手をひらひらと振って手招きする。
何かまだ文句を言いたそうなジャジャマルだったけど、やっぱり痛いのか怪我した足を庇う様にひょこひょこ歩いてこっちに来た。

「ほら、ここに座れ~」
俺がさっきまで座っていた階段に座らせ、擦り剝いた膝小僧に手をかざす。
光よ、癒せルクス・サナ
いつも通り、淡い光の粒子が傷口に纏わりつき、みるみる傷が塞がっていく。

「すごーい!」
「すごいですね~」
ピッコロとコロリが目を見開いて驚きの声を上げている。

「……なぁ、お前らの友達に、よく死体と出くわす眼鏡の少年とかいたりしない?」
つい想像したくない某眼鏡の少年探偵を思い浮かべてしまい、コロリに聞いてみる。
「ん?めがねのお友だち?ん~、近所にめがねをかけた男の子はいるよ!でも、死体にいっぱい会うなんて聞いたことないよ?」
不思議そうに小首を傾げながら言ってくるコロリ。
うん。女の子は可愛いね。

「そうですよ。コナン君は頭がいいですけど、そんな物騒な子じゃありませんよ」
ピッコロの言った名前を聞いて、俺は少しだけ目の前が暗くなったような気がした。

できれば、その『コナン君』にだけは、なんとなく会いたくないな……
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