上 下
25 / 55
第二章

24.この世界でも男装ってあるんだ…

しおりを挟む
 アスペンデールの町を出発して、早1ヶ月。
 次の目的地である町までもう少しってところまで来たらしいけど、俺たちは今、別の村に滞在している。
 今までにも宿泊が可能な村とか町が見つかったら、寄っていたんだけど、いつもなら一泊したらすぐに旅に出るって感じなんだよね。
 今回もその予定だったんだけど、この村の『世にも奇妙なお祭り』に巻き込まれてしまったのが原因で、俺たちは足止めを食らっていた。
 元をたどると昨日の昼間、ここの近くを通ったのが運の尽きだったんだと思う。

 ◇ ◇ ◇

 魔王の待っている魔国に到着するまでは、まだまだ道のりは長く、国境まで半分も到達できてないらしい。
 だいぶ旅にも慣れてきたって言っても、先はまだ遠いって言われて心が折れそうになる。

 ルイミヤは、最初の時と比べたら雲泥の差があるくらい、俺に甘くなっている。
 すぐに「疲れてないか?」とか、「休憩するか?」って聞いてくる。
 しかも、夜は「寒くないか?」って、聞きながら俺のこと抱きしめてくれてさ……
 もう、リークフリードさんの視線が突き刺すように痛くて仕方ない。

 ルイミヤと仲良くなれたのは嬉しいけど、欲を言えば、リークフリードさんとももうちょっと仲良くなりたいんよな。
 まぁ、俺は恋敵みたいだから、難しいのかな……
 ルイミヤ、罪づくりな男だよ、本当。

 そんなわけで、天気のいい今日も、ゆったりまったり、無理なくご安全な旅を続けていたんだ。
 そんな俺たちの向かう先に、何やら困り果てた様子の見目麗しい人がひとり、道の端で頭を抱えてうずくまりながら唸っていた。
 こういう場合、トラブル回避のために無視するのが一番ってのはわかっているんだけど、困った人をほっとけないのが俺なんだよね。

 二人が明らかに関わるのは止めとけって顔をしているのを他所に、ついつい声を掛けちゃった。てへっ
「お兄さん大丈夫ですか?気分が悪かったり、痛かったりする?」
 うずくまっている人の前に膝をつき、視線を合わせるようにして声を掛ける。

「え、あ……大丈夫、です。ちょっと、足を怪我してしまっただけなので……」
 ん?お兄さんだと思っていたのに、思っているよりも声が高いというか、青年役の多い女性声優のようなちょっと甘い声。
 そう、俺も好きだった緒●恵●さんっぽい感じ。
 うん、蔵馬とかめちゃくちゃ好きだったよ。
 コスはしてないけど……。
 俺がやっても似合わないしね。

「ん?あれ?お兄さんじゃなくて、お姉さん?」
 声を聞いてなぜか焦ってしまった。
 服装とか色々、パッと見は男性に見えていたんだけど、声を聞いて改めて顔を見ると、どう見ても女性だった。
 この世界で男装とか女装している人なんて、まだ会ったこともなかったからびっくりしたよ。

「って、足を怪我しているなんて大変じゃん。怪我の具合にもよるけど、俺でよかったら治療しますよ」
 男装のお姉さんを安心させるように、軽く微笑みかけてみる。
 ルイミヤみたいに天使の笑顔ってわけじゃないけど、仏頂面で話しかけるより安心してもらえるだろ。

 彼女は俺とルイミヤ、リークフリードさんの顔を順番に見て、まだ少し警戒しながらも、「ありがとうございます」と小さな声で言ってくれた。

 怪我をしているのは、右の足首だけみたいだ。
 捻ったのか、青い痣になっていて、見ていて痛そうだった。
光よ、癒せルクス・サナ!」
 俺が魔法を詠唱すると、彼女の足首に淡い光の粒子が纏わりつく。
「すごい……」
 ぽそっと彼女が感嘆の声を上げてくれるとつい嬉しくてクスっと笑ってしまう。

 静かに光の粒子は消えたころには、さっきまで痛そうな青痣も綺麗になくなり、腫れも引いているようだった。
 無事に治療できたみたいで、俺自身もホッとする。
 捻挫だから傷跡とかの心配はないと思うけど、こんな場所で怪我して動けないとか不安だもんね。
 特に女性だと何があるかわかんないしさ……

 それにしても、なんか最近ちょっとだけレベルアップした気がするんだよね。
 切り傷とかは未だに直りが悪いけど、擦り傷くらいなら治りが早くなっている気がする。
 ルイミヤとの特訓が功をなしているのかな?

「これで大丈夫。他に痛いところとかない?」
 優しく笑みを浮かべて声を掛けるも、彼女は驚いたように目を見開いていて
「え?治癒魔法なんてそんな、聖女様みたいな!え!?」
 なんかめちゃくちゃ動揺している様子に、逆に申し訳なくなってくる……

「お嬢さん、他に痛いところはないだろうか?」
 ルイミヤが天使のような笑みを浮かべ、まだ座り込んでいる彼女に手を差し伸べる。
 ルイミヤのあの笑みを直視してしまったせいか、彼女は首まで真っ赤になったうえ、ぽぉーっと見つめている。
 うん。わかる。めっちゃ見惚れるよね。
 王子様ってこういうのか~ってしみじみと思うもん。
「歩けるか?」
 ルイミヤの手を借りて立ち上がらせてもらった後、コクコクと何度も首を縦に振って肯定している。
「はい!えっと、治療してくださりありがとうございます!私はリリアンと言います」
 さっきまでの動揺はどこへやら、もう目はルイミヤに釘付けだ。
「あの、もしよろしければ、私の村に来ていただけないでしょうか?お礼もしたいですし、なんでしたら今日からお祭りもあるので来ていただきたいです!」

 結構必死な感じで、ルイミヤの手をしっかり握ってお誘いする男装のお姉さん、基リリアンさん。
 ちょっと宝塚っぽい感じでカッコ可愛いけど、ルイミヤは……
 って、別に俺は関係ないから!
 ルイミヤに手を出すと、リークフリードさんっていう怖~いお兄さんが睨み付けて来るよ~。
 って、あれ?リークフリードさん全然怒っている様子もないし、むしろなんか穏やかな表情なんだけど。
 え?あの人では恋のライバルにもならないってことか?
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...