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第一章

10.不安しかない旅路の始まり

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 聖女の旅立ちって聞くと、なんか盛大な凱旋パレードとか歓声とかあると思っていた。
 ほら一応、国を挙げて異世界から聖女召喚っていう一大イベントをわざわざやったのに?
 まぁ、そんな盛大に送り出されるのは、俺的にも気が引けるからしなくてもいいんだけど……

 でも、実際はめちゃくちゃ静かで、むしろこっそり王城から出るって感じのモノだった。
 まぁ、そりゃそうか。
 聖女だからって、お供にこの国の第三王子と聖騎士団団長様が一緒だからって、出立を盛大に祝うのはおかしいよな。
 しかも、今から向かうのは魔王城。

 ここから馬車を使って大急ぎで行くにしても、最短で3ヶ月はかかるらしい。
 ってか、馬車でももっとかかると思っていた。
 車とか飛行機のないこの世界で、交通手段と言えば、馬車か徒歩くらいしかないしね。
 まぁ、そうだよね。魔導列車とか空飛ぶ車とかあったら、なんかイメージ崩れるから嫌じゃん?

 有り難いのは、ここローゼンベルク王国と魔王の住んでいる国、魔国は山脈を挟んでお隣さんらしい。
 思っていたより近いことに驚いたけど、近年ではだいぶ道も整理されているから比較的に交流も頻繁にしていたんだって。
 まぁ、どれだけ道を整備したりしても、この世界には魔物とか凶暴な野生動物はいるらしいから、旅に出る=危険ってことには変わりないけど。

 で、最初は馬車に揺られてどんぶらこ~って、連れて行ってもらう予定だったのだけど、折角召喚された異世界なのになんか嫌じゃん!
 このまますんなり(?)魔王のところに行くよりも、異世界を堪能したいし、できるだけ魔王に会うのは先送りにしたい。
 ってことで、「この国を色々回りながら旅をして、魔国に行きたい!」って、我儘を言ってみた。
 最初はルイミヤ殿下もリークフリードさんには怪訝な顔をされてしまったけど、俺自身の今の魔法を見てちょっと悩んだらしい。
 安全に向かうなら馬車の方が断然良いはずだけど、今のまま魔王に会ってもなぁ~
「これ、本当に聖女?」って、魔王に確認されかねない。いや、むしろ、絶対される。
 それくらいショボい魔法しか俺は使えないから……
 なんか、自分で言っていて悲しくなってきた……

 旅をしながら、日々練習すれば、魔国に入る頃には多少マシになっている、はず。多分。


「では参りましょうか、聖女マコト様」
 どこか冷たい物言いのルイミヤ殿下に促され、歩みを進める。
 な~んか、地毛の姿を見られてから態度が冷たいんだよな……

 騎士王のコスプレしていた時は、本物の聖女様扱いみたいに、丁寧に扱ってくれていたのに、俺が本当に男だってわかってからは態度がこんな感じ。
 乱雑なわけじゃないけど、興味が失せたみたいに冷たいんだよね……
 ん~、俺のセイバーコス、本当に可愛いからなぁ~
 初恋泥棒したのに、本当はこっちが本当の姿でした!ってのに、ハートブレイク?
 なんかごめんなぁ~……ちゅ、可愛くてごめん♡ってやつ?
 って、バカなことを考えているのには訳がある。

 俺の前を仲良く話しながら歩く二人。
 王子と騎士って立場らしいけど、リークフリードさんは元々、第三王子であられるルイミヤ殿下の専属騎士だったらしい。
 ルイミヤ殿下の剣技指導とかもしていて、兄みたいに慕っているってロッ●ンマイヤーさんが教えてくれた。
 つまり、この旅で部外者なのは俺一人。

 この世界で知り合いなんて二人くらいしかいないのに、俺はひとりぼっち。
 楽しくお喋りしながら歩いている二人の後ろを、はぐれないようにだけ気を付けながらとぼとぼと歩くのが俺の使命。
 俺には会話なんて一切ない。
 休憩に入るときとか、食事に入るとき、宿に泊まるとか、野宿とか……
 本当に最低限の会話だけ。

 俺、そんな嫌われることしたっけ……?
 リークフリードさんの視線も冷たいしさぁ……
 なんか、思っていた異世界の旅とは違うし、根暗なヲタクでもぼっちはツラい。
「……ですから、…………聞いていますか?」
「んブっ!?え?あ、な、なにが?」
 俯いてとぼとぼと歩いていたせいで、全然前を見ていなかった。
 そのせいで、リークフリードさんの強靭な胸板に顔面を強打してしまい、呆れられたような溜息をこっそりと付かれてしまう。

「あ、すみません。えっと、ちょっと……考え事をしていて……」
 赤くなってしまった鼻をさすりながら謝罪すると、あからさまに呆れたような溜息を付かれてしまった。
「ですから、次の町に着きましたらすぐに宿を取りましょう。マコト様もそうですが、ルイミヤ殿下も連日の野宿でお疲れでしょうから。と申し上げただけです」
 無表情のまま、俺を見下すというか身長が高いから、そうなっちゃうのは仕方がないことなんだろうけど、俺を見る目はやはり冷たい。

 俺よりも多分、ルイミヤ殿下を休ませてあげたいだけだと思う。
 はぁぁぁ……なんか、早くも帰りたくなってきた。
 こんなことなら一人で旅した方が気楽でよかったかも……
 旅なんてしたことないから、無事にたどり着ける自信はないけど……
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