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第一章

4.魔王からの手紙

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 お通夜のような重い沈黙が流れる大広間。
 王様の涙が落ち着いた頃、やっとポツポツと話し始めてくれた。
 なんでわざわざ大変な儀式が必要な異世界召喚を行ってまで、異世界から聖女を呼び出さなきゃいけなくなったのかっていう話からだった。

 それは今から二年前、ずっと友好関係を築いてきたはずの魔国から、一通の手紙が原因らしい。
 ってか、仲良かったのかよ!?え?マジで?魔族と人間はずっと争いをしてきました。って、話じゃなくて?
 って、つい色々ツッコミが口から出そうになったけど、留めることができた。俺、エライ。

 俺の驚きを他所に、王様はションボリとした様子で話していく。
 時々、宰相様が補足説明してくれるから、めちゃくちゃわかりやすかった。
 手紙の内容は、いつも通りの貿易についてだったり、次の交換留学はいつにするか~って話だったりと、至って普通の内容だったんだって。
 最後の一文を除いては……

【異世界から召喚された聖女を、必ずこちらに寄越して欲しい。大切なお話があるので、必ず我が国に来てもらうように。できないなら……世界は終わると思え】
 うん。大変物騒である。
 え?友好国って言ってたじゃん。なに?情緒不安定なの?その魔王。
 しかも、聖女を送って来なきゃ世界が終わるって、どんな魔王なんだよ。いや、魔王なのは間違いないのか……

「しかし、この手紙が届いた時、聖女様はこの国に居なかったと……」
 俺の言葉にうんうん。と涙ながらに何度も頷いている王様。
 なんか、この王様可愛いな……ちょっとイジめたくなるかも……
「しかも、異世界召喚なんて行った記述があるのは遥か昔の文献にちょろっと書かれているだけで、それを必死に解読して行ったと……」
 胸の前で手を組んで、祈るような眼差しを俺に注いでくる王様。
 宰相様、大勢の人に見られているのに、王様のこと愛し気に見つめちゃっているよ……
 これ、実は隠してないな?
「魔王っていうのも酷だよね。そんな大変な儀式が必要なのに、三年以内って期限まで付けているとか……」
 王様の話を自分なりに解釈して聞いているだけで不憫である。

 そりゃ国中大騒ぎになってもしかたないよな~……
 慌てて国中の魔術師をかき集めて、過去の文献に異世界召喚の記述がないのかを紐解いて、やっと召喚の儀を執り行ったと……
 本当に、大変だったんだろう。
 貴族の人も、騎士の人も、みんな一様に王様と同じような表情をしている。
 この国の人たち、多分いい人ばっかりなんだろうな……

「兄上が、率先して文献の解読にあたってくださったのです」
 俺の背後から急に話しかけてきたのは、あの教会みたいなところで会った王子だった。
「長期の疲労と魔力切れにより臥せってしまった兄上の代わりに、私が聖女様の召喚の儀を行ったのです」
 恭しく俺の足元に片膝を付き、慣れた手つきで手を取って、手の甲に軽く触れるだけの口付けをしてくる。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。この国の第三位王位継承を拝しております、ルイミア・ラン・ローゼンベルクと申します。聖女マコト様」

 うん。光に透ける柔らかな金髪に、空色の青色の瞳。
 身長は俺よりも頭一つ分高い。
 まぁ、俺が日本の成人男性の身長以下ってのもあるけど……
 じょ、女装するのには丁度いいんだからな!決して、マキより低かったのを気にしているわけじゃないからな……
 大人っぽく見えるけど、絶対俺より年下なんだろうなぁ……
 ちょっとプロトのセイバーのコスプレでもしてくれないかな?
 絶対似合う。ってか、そのままイケると思うんだけど……

 ルイミヤと言われた王子の顔をじぃーっとつい見つめて、ついついいつものようにヲタク脳にトリップしてしまうも、告げられた敬称に声が出てしまう。
「あ、どうも。って、本物の王子様なのか!?」
 驚きすぎてつい手を引っ込んでしまい、一瞬、軽く睨まれてしまった。
 いや、仕方ないじゃん?
 俺は元の世界でもごく一般家庭の成人男性であって、社交界とかこんな王様に謁見する機会なんて一度もなかったのだから。
 ってか、異世界召喚に巻き込まれただけでも結構キャパオーバーなんだよ。

「マコト様には本当に申し訳ないと思っている。だが、先程説明した通り、この国は危機に瀕しております」
 王様と違ってハキハキと喋っているものの、王子様の透き通った瞳も不安げに揺れているのを俺は見てしまった。
「魔王からの約束の期限は、もう間近に迫っております。今から新たな聖女を召喚しようにも、時間が足りません。私たちには、聖女マコト様をお連れするしか残された道はないのです」

 そりゃそうだよな。魔王からの脅しの期限が迫っているっていうのに、やっと召喚に成功して来たのが俺って……
 あの時にマキが魔法陣の中心に居れば、色々と違ったのかもしれない。
 俺が手を伸ばさなければ……
 でも、目の前で彼女が連れ去られるのを黙って見ているなんてできなかった。
 まぁ、そのマキが原因で俺はココにいるのだけど……
 この人たちにとっては、藁にでもすがる気持ちなんだろうな……

「そう言われても……男の俺が聖女として魔王のところに向かって、余計に怒らせるってことはないか?ほら、どういう理由で聖女を欲しているのか知らないけど、嫁候補とかだったら俺が男だったら困るだろ?」
 俺にすがり付かれても困る。って、気持ちを前面に出して説明したけど、王様も貴族の人も、王子様すら、み~んな俺に助けを求めるような目で見てくる。

「しかし、魔王からの手紙には、聖女の容貌もしっかりと書かれていたのです。【そのもの青き衣をまといて、金色の野に降り立つ】と……」
 王様の手には、例の魔王からの手紙があるのだろう。
 また涙を零しなら読み上げた内容に、再度俺はツッコミを入れたい。
「だから、なんでナ●シカなんだよっ!!」
 いや、今回は黙っていることが出来ず、つい手を付けてツッコミの言葉を発していた。
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