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【白い四葩に一途な愛を】おまけ
トリック・オア・トリート
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ここ数年で、この行事も有名になってきた。
本来の意味とは少し異なる行事として、日本では広まっているような気もするけど……
それでも、街は盛り上がるし、その関連のグッズも多く出てくるようになった。
「國士、おはよう。少しは元気になった?」
弟である天河が、時々、こうやって時折顔を見せに来てくれる。
体調を崩すようになってから、あまり家から出ようと思わなくなったのが原因だ。
この家に居れば、アイツのことを忘れずに済む。
二人で暮らしていた家だからこそ、忘れたくない。
花を吐き始めてから3ヶ月か……
少しずつ消えていくアイツとの思い出を、少しでも残したくて日記に書き留めるだけの日々。
いつか、全てを忘れてしまう日が来てしまうのかもしれない。
それでも、俺はアイツのことを忘れたくないってあがくんだろうな……
「國士、会社のことは気にしなくてもいいよ。今は順調に進んでいるから。まぁ、國士が居ないと僕の負担がすごいんだけどね」
冗談交じりに文句を言ってくる天河に、フッと笑みがこぼれる。
アイツが居たら、もっと文句を言ってきたんだろうな……
『天河に迷惑をかけるな!でも、國士も働きすぎなんだから、オレを頼れよ!』って……
アイツのことを思った瞬間、喉奥に張り付くモノも感じ、咳と共に小さな花を一輪吐き出す。
花は手に落ちた瞬間、パリンッと小さな音を立てて崩れて消え去ってしまった。
――また、何かを失った――
溜息と共に、フッと笑みを浮かべてしまう。
そんな俺の顔を見て、天河の方が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
ポンポンと子どもでもあやすように、天河の頭を撫でてやる。
「天河には迷惑かけちまって悪いな。会社のことは、任せたから」
元秘書である松浦には天河を助けてやって欲しいと連絡は取ってある。
俺とアイツが一気に抜けたせいで、全ての負担が天河に行ってしまったから……
天河には、本当に悪いと思っている。
「國士、今日はハロウィンなんだって。ここに来る前に商店街を通ったけど、結構すごかったよ。近所でも仮装をしている子が何人かいてね」
話題を逸らすように、ハロウィンのことを話してくる。
「最近のハロウィンってすごいよね。子どもたちだけじゃなくて、大人もみんな仮装しててさ。ちょっと際どい仮装の人もいて、驚いちゃったよ」
思い出したようにクスクス笑う天河につられ、つい笑みがこぼれる。
「天河、気を付けろよ。お前もモテるんだから、変な女には気をつけろよ?」
からかう様に言ってやると、拗ねたように唇を尖らせて、ブツブツとなにか文句を言っていた。
まだ少し子どもっぽさの残る天河に、弟だからこそ可愛く思えてくる。
「はぁ、兄貴も気を付けろよ。紫苑が居ないからって、他の子に手を出したら浮気だからな」
仕返しとばかりにアイツの名前を口にする天河に苦笑してしまう。
そういえば、アイツの名前を聞くのも、久々だな……
◇ ◇ ◇
天河が帰った後、静かに珈琲を飲みながらテレビを見た。
そろそろ夕飯の買い物に行かなければ、今日も何も食べずに終わりそうだ。
重い腰を上げ、財布とスマホだけをポケットに入れて家を出た。
昼間に天河が言っていた通り、近所でも仮装を楽しんでいる人を何人も見かけた。
何かのアニメのコスプレやおばけの仮装、明らかに露出の変態だろってヤツまで……
ただのどんちゃん騒ぎをしたいだけって、感じにしか見えないが……
そういえば、本来のハロウィンは、秋の収穫祭やらお盆みたいなモノだったな……
悪霊や精霊が現世にやってくるから、連れて行かれないために逆に驚かせて追い払うって風習。
今の日本とは全く関係もゆかりもない風習だが、お祭り好きな日本人にとっては、そんなのなんでもいいんだろうな……
人通りの少ない道を、買い物袋を下げて一人で歩く。
今日の夕飯は、適当に選んだカップ麺だ。
料理なんて、俺には出来ないからな……
今の俺の食生活を見たら、アイツはなんて言ってくるんだろうな……
そんな事を思いながら、アイツとよく通った道を一人で歩いた。
手を繋いでいる姿を見られるのが恥ずかしいって言っていたアイツに、ここなら大丈夫だって言って、無理矢理手を繋いで歩いたっけ……
顔を真っ赤にさせながら、俯いて歩くアイツが可愛くて、よく悪戯をして怒られたな……
そんな思い出に浸っているのに、邪魔をするように、また、何かがせり上がってくる。
もう何度も経験した不快な嘔吐感。
喉に引っ掛かる感覚に、眉間に皺を寄せながら、無理矢理吐き出しそうなモノを飲み込んで抑える。
「はぁ……、キツいな…」
「トリック・オア・トリート」
不意に後ろから声を掛けられる。
どこか懐かしいような声に、つい怪訝そうな顔で振り返った。
そこにはハロウィンの仮装をした大人がひとり、いつの間にか立っていた。
真っ白なシーツのようなモノを羽織っており、男性なのか女性なのかすらわからない。
顔も、カボチャの被り物をすっぽりと被っているせいで、当然素顔なんてわかるはずもない。
「トリック・オア・トリート」
再度同じ言葉を口にし、シーツの隙間から左手を出してくる。
白くて少し節ばった手を見ると、男のモノだとわかった。
「残念だが、何も渡せるものはないな」
両手を上げて、何も持っていない手のひらを見せ、ぶっきら棒に応える。
さっき買ったばかりのカップ麺ならあるが、知らない奴に渡すのはなんか癪で、その気にもならない。
でも、なぜか差し出されたその手から目が離せなかった。
薬指に光る、細身のプラチナな指輪。
俺が持っている、大切な形見にそっくりの指輪だった。
「そっか、残念。じゃあ、トリックだね」
カボチャの被り物のせいで、表情は見えないはずなのに、なぜか笑っているような気がした。
悪戯が出来るのが嬉しくて仕方ないって感じの声で言ってくる。
「ちゃんとしたご飯も食えよな」
意味ありげなコトを呟いた後、急に白い手に腕を掴まれ、被り物越しにチュッとキスをされる。
「ふふっ、奪っちゃった~♪これで許してあげる」
俺が驚いて固まっているのを良い事に、シーツをふわっとたなびかせ、そのまま煙のように消え去って行った。
後には、ポツンと残された俺ひとり。
唇に手を当てると、確かに感触は残っているから夢じゃないのは確かだ。
「ふ、ふ、ふ……あはははははっ」
俺以外、誰も居ない道で、大の男がひとりで大笑いしている光景は異様だと思う。
でも、こんなの笑うしかないだろ?
「忘れろって自分で言っておいて、寂しくなったのか?」
笑い過ぎたせいなのか、あのジャック・オー・ランタンが誰なのかわかったせいか、涙目になりながら独り言を口にする。
「確かに、本物の幽霊が混ざってたっておかしくないよな。イタズラするなら、もっとすごいコト、やればいいのに……」
いつの間にか、声も震えてしまい、涙が頬を伝い落ちていた。
「紫苑……。まだ愛してるよ。ずっと、忘れられないくらい、お前だけを……」
誰に言うでもなく、誰に聞かれるわけでもない独白。
夕闇が迫る裏路地で、遠くに見える商店街の明かりが羨ましく見える。
まだ、この街のどこかに、アイツは隠れているのかもしれない。
今日だけは、戻って来て遊んでいるのかもしれない。
アイツに悪戯をして貰うには、また見つけてやらないとな……
本来の意味とは少し異なる行事として、日本では広まっているような気もするけど……
それでも、街は盛り上がるし、その関連のグッズも多く出てくるようになった。
「國士、おはよう。少しは元気になった?」
弟である天河が、時々、こうやって時折顔を見せに来てくれる。
体調を崩すようになってから、あまり家から出ようと思わなくなったのが原因だ。
この家に居れば、アイツのことを忘れずに済む。
二人で暮らしていた家だからこそ、忘れたくない。
花を吐き始めてから3ヶ月か……
少しずつ消えていくアイツとの思い出を、少しでも残したくて日記に書き留めるだけの日々。
いつか、全てを忘れてしまう日が来てしまうのかもしれない。
それでも、俺はアイツのことを忘れたくないってあがくんだろうな……
「國士、会社のことは気にしなくてもいいよ。今は順調に進んでいるから。まぁ、國士が居ないと僕の負担がすごいんだけどね」
冗談交じりに文句を言ってくる天河に、フッと笑みがこぼれる。
アイツが居たら、もっと文句を言ってきたんだろうな……
『天河に迷惑をかけるな!でも、國士も働きすぎなんだから、オレを頼れよ!』って……
アイツのことを思った瞬間、喉奥に張り付くモノも感じ、咳と共に小さな花を一輪吐き出す。
花は手に落ちた瞬間、パリンッと小さな音を立てて崩れて消え去ってしまった。
――また、何かを失った――
溜息と共に、フッと笑みを浮かべてしまう。
そんな俺の顔を見て、天河の方が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
ポンポンと子どもでもあやすように、天河の頭を撫でてやる。
「天河には迷惑かけちまって悪いな。会社のことは、任せたから」
元秘書である松浦には天河を助けてやって欲しいと連絡は取ってある。
俺とアイツが一気に抜けたせいで、全ての負担が天河に行ってしまったから……
天河には、本当に悪いと思っている。
「國士、今日はハロウィンなんだって。ここに来る前に商店街を通ったけど、結構すごかったよ。近所でも仮装をしている子が何人かいてね」
話題を逸らすように、ハロウィンのことを話してくる。
「最近のハロウィンってすごいよね。子どもたちだけじゃなくて、大人もみんな仮装しててさ。ちょっと際どい仮装の人もいて、驚いちゃったよ」
思い出したようにクスクス笑う天河につられ、つい笑みがこぼれる。
「天河、気を付けろよ。お前もモテるんだから、変な女には気をつけろよ?」
からかう様に言ってやると、拗ねたように唇を尖らせて、ブツブツとなにか文句を言っていた。
まだ少し子どもっぽさの残る天河に、弟だからこそ可愛く思えてくる。
「はぁ、兄貴も気を付けろよ。紫苑が居ないからって、他の子に手を出したら浮気だからな」
仕返しとばかりにアイツの名前を口にする天河に苦笑してしまう。
そういえば、アイツの名前を聞くのも、久々だな……
◇ ◇ ◇
天河が帰った後、静かに珈琲を飲みながらテレビを見た。
そろそろ夕飯の買い物に行かなければ、今日も何も食べずに終わりそうだ。
重い腰を上げ、財布とスマホだけをポケットに入れて家を出た。
昼間に天河が言っていた通り、近所でも仮装を楽しんでいる人を何人も見かけた。
何かのアニメのコスプレやおばけの仮装、明らかに露出の変態だろってヤツまで……
ただのどんちゃん騒ぎをしたいだけって、感じにしか見えないが……
そういえば、本来のハロウィンは、秋の収穫祭やらお盆みたいなモノだったな……
悪霊や精霊が現世にやってくるから、連れて行かれないために逆に驚かせて追い払うって風習。
今の日本とは全く関係もゆかりもない風習だが、お祭り好きな日本人にとっては、そんなのなんでもいいんだろうな……
人通りの少ない道を、買い物袋を下げて一人で歩く。
今日の夕飯は、適当に選んだカップ麺だ。
料理なんて、俺には出来ないからな……
今の俺の食生活を見たら、アイツはなんて言ってくるんだろうな……
そんな事を思いながら、アイツとよく通った道を一人で歩いた。
手を繋いでいる姿を見られるのが恥ずかしいって言っていたアイツに、ここなら大丈夫だって言って、無理矢理手を繋いで歩いたっけ……
顔を真っ赤にさせながら、俯いて歩くアイツが可愛くて、よく悪戯をして怒られたな……
そんな思い出に浸っているのに、邪魔をするように、また、何かがせり上がってくる。
もう何度も経験した不快な嘔吐感。
喉に引っ掛かる感覚に、眉間に皺を寄せながら、無理矢理吐き出しそうなモノを飲み込んで抑える。
「はぁ……、キツいな…」
「トリック・オア・トリート」
不意に後ろから声を掛けられる。
どこか懐かしいような声に、つい怪訝そうな顔で振り返った。
そこにはハロウィンの仮装をした大人がひとり、いつの間にか立っていた。
真っ白なシーツのようなモノを羽織っており、男性なのか女性なのかすらわからない。
顔も、カボチャの被り物をすっぽりと被っているせいで、当然素顔なんてわかるはずもない。
「トリック・オア・トリート」
再度同じ言葉を口にし、シーツの隙間から左手を出してくる。
白くて少し節ばった手を見ると、男のモノだとわかった。
「残念だが、何も渡せるものはないな」
両手を上げて、何も持っていない手のひらを見せ、ぶっきら棒に応える。
さっき買ったばかりのカップ麺ならあるが、知らない奴に渡すのはなんか癪で、その気にもならない。
でも、なぜか差し出されたその手から目が離せなかった。
薬指に光る、細身のプラチナな指輪。
俺が持っている、大切な形見にそっくりの指輪だった。
「そっか、残念。じゃあ、トリックだね」
カボチャの被り物のせいで、表情は見えないはずなのに、なぜか笑っているような気がした。
悪戯が出来るのが嬉しくて仕方ないって感じの声で言ってくる。
「ちゃんとしたご飯も食えよな」
意味ありげなコトを呟いた後、急に白い手に腕を掴まれ、被り物越しにチュッとキスをされる。
「ふふっ、奪っちゃった~♪これで許してあげる」
俺が驚いて固まっているのを良い事に、シーツをふわっとたなびかせ、そのまま煙のように消え去って行った。
後には、ポツンと残された俺ひとり。
唇に手を当てると、確かに感触は残っているから夢じゃないのは確かだ。
「ふ、ふ、ふ……あはははははっ」
俺以外、誰も居ない道で、大の男がひとりで大笑いしている光景は異様だと思う。
でも、こんなの笑うしかないだろ?
「忘れろって自分で言っておいて、寂しくなったのか?」
笑い過ぎたせいなのか、あのジャック・オー・ランタンが誰なのかわかったせいか、涙目になりながら独り言を口にする。
「確かに、本物の幽霊が混ざってたっておかしくないよな。イタズラするなら、もっとすごいコト、やればいいのに……」
いつの間にか、声も震えてしまい、涙が頬を伝い落ちていた。
「紫苑……。まだ愛してるよ。ずっと、忘れられないくらい、お前だけを……」
誰に言うでもなく、誰に聞かれるわけでもない独白。
夕闇が迫る裏路地で、遠くに見える商店街の明かりが羨ましく見える。
まだ、この街のどこかに、アイツは隠れているのかもしれない。
今日だけは、戻って来て遊んでいるのかもしれない。
アイツに悪戯をして貰うには、また見つけてやらないとな……
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