白い四葩に一途な愛を

こうらい ゆあ

文字の大きさ
上 下
21 / 27
【白い四葩に一途な愛を】

【完結】19

しおりを挟む
俺は、一人で住んでいた部屋を引き払い、紫苑しおんとの思い出の詰まったこの家に帰ってきた。
当然と言えば当然だが、俺の帰るべき場所はココしかないと思った。

あの日から何もヤル気が起きず、仕事も惰性的にしか行えない。
天河てんかが居てくれるお陰で成り立ってはいるものの、それも時間の問題でしかない。

早々に仕事を切り上げては、誰も居ないこの部屋に帰って来るだけの日々。
部屋を片付ける気にはなれなかった。
紫苑しおんが吐いたと思う紫陽花が、家のあちこちに飾られており、今も枯れることなく、色鮮やかに咲き誇っている。

今日は、紫苑しおんそらに還った日から四十九日。
天河てんかを呼ぼうかと思っていたが、そんな気にもなれなかった。


8月31日、俺の誕生日……
合わせたみたいに、俺の誕生日と紫苑しおんの四十九日が同じ日なんてな……


ずっと泣き続けたせいで、涙は枯れ果てたのか、最近は何も出ない。
ただ、穏やかな笑みを浮かべながら、花を愛おしげに触れる。
紫苑しおん、この花は誰を想って吐いてくれてたんだろうな……」


ピンポーン


明るいチャイムの音が室内に響き渡る。
紫苑しおんを想っていたのを邪魔された様な気がして、つい眉を顰めてしまうと同時に、深い溜息を吐き出す。

扉を開けると、宅配業者が立っていた。
「お届け物です。織田 國士こくしさんでしょうか?お名前の確認をお願いします」
わざわざ名前の確認までして持って来た物は、たった1通の手紙だった。

わざわざ?と怪訝に思いながらも、送り主を確認する。


『四葩 紫苑』


名前を見た瞬間、目を見開き慌てて宅配業者に礼を言ってから扉を閉める。
紫苑しおん、からの……手紙?なんで……?今更……」

震える手でゆっくりと封筒を開くと、1枚の便箋が入っていた。


『誕生日おめでとう

國士こくし、オレはずっと、ずっと、幸せだったよ。
愛してくれてありがとう。
幸せにしてくれてありがとう。

オレも國士のこと、愛してる。

だから…もうオレのこと忘れていいよ。
國士、愛してる。


バイバイ』


久しぶりに見た紫苑しおんの文字が滲んで読めない。
「あの、手紙が……最後じゃ、なかったのか……」

封筒から何かが転げ落ち、床を転がっていきテーブルの脚にぶつかって倒れる。
見覚えのある細身のプラチナのリング

俺が紫苑しおんにパートナーになろう。と、結婚しよう。って贈った結婚指輪。
ずっと、ずっと、探しても見つからなかった遺品。

指輪には、細い赤い糸が結ばれていた。
俺が贈った時と同じ様に……
ただ、その糸の先には何も結ばれていない。

もう、運命の糸が切れてしまったという様に、赤い糸の先は千切れていた。


「ッ……紫苑しおん紫苑しおんっ!」
指輪と手紙を抱き締め、枯れ果てたと思っていた涙が溢れた。
声が涸れるほど愛しい恋人の名前を呼んで泣いた。

抜け殻のようになった俺の手に、いつの間にかあった白い紫陽花。

紫苑しおん……俺も愛してる。でも、今会いに行っても許してくれないだろうから、もう少し待っててくれ……」
白い花を見つめた後、自らの口に含む。

胃の奥から何かが迫り上がってくる吐き気に耐えれず、唾液と共に何かを床に吐き出す。

吐き出したのは淡い紫色の紫陽花だった。


彼の名前を思い出す、淡い紫の可憐な花。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】私の大好きな人は、親友と結婚しました

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
伯爵令嬢マリアンヌには物心ついた時からずっと大好きな人がいる。 その名は、伯爵令息のロベルト・バミール。 学園卒業を控え、成績優秀で隣国への留学を許可されたマリアンヌは、その報告のために ロベルトの元をこっそり訪れると・・・。 そこでは、同じく幼馴染で、親友のオリビアとベットで抱き合う二人がいた。 傷ついたマリアンヌは、何も告げぬまま隣国へ留学するがーーー。 2年後、ロベルトが突然隣国を訪れてきて?? 1話完結です 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

処理中です...