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【白い四葩に一途な愛を】
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病院で余命を宣告されてから2ヶ月が経った。
日に日に身体の衰えを実感する。
歩くだけでも呼吸がし難くて、階段なんて上がらなきゃいけない時は、人の倍以上の時間が掛かってしまう。
すぐに息が切れて、心臓がバクバクと波打って、酸欠になっているのか耳の奥で轟音が聞こえてくる。
誰かと一緒にいる時は、悟られないように必死に虚勢を張るんだけど、一人になった瞬間倒れそうになったことは一度や二度じゃない……
普通に歩いてる時でも、すぐに立ち止まったり座り込んでしまう。
そんな日が日に日に増えていって……
そろそろ、自分の身体が限界なのを感じていた。
「これで最後かな……」
誰も居なくなった社内を見渡し、電気を消す。
非常階段を示す誘導灯の緑色の明かりと自販機の明かりだけが煌々と光り、暗いはずの廊下を照らしている。
4月半ばだというのに、最近は気温が落ち着いてないから、暖房が入っていても少し肌寒い。
オフィスの奥にある窓ガラスから見える夜景が綺麗で、ここのビルに引っ越してきた時のことを思い出す。
「紫苑、誕生日なのにごめん!!」
オレの誕生日に問題が発生して、深夜近くまで三人でワタワタと問題解決に走り回った。
朝からそうだったせいで、自分の誕生日のことなんてさっぱり忘れてたのに……
國士と天河は、本当に申し訳なさそうに謝ってきてさ……
「と、とりあえず、誕生日おめでとう!」
天河が困ったような笑みを浮かべて言うと、何故か國士が不機嫌になり
「俺より先に祝うなよ!紫苑、誕生日おめでとう。産まれてきてくれて、本当にありがとう」
天河がいるのに、恥ずかしげもなく抱き付いてキスしてくるから、オレの方が慌てちゃって……
天河も気まずそうに笑ってた。
疲れきった身体で、三人で笑いながら缶コーヒーを飲んだっけ……
ここから見える夜景を観ながら、二人がオレの誕生日を祝ってくれた。
「あの時の國士の無邪気な顔、ホントに可愛かったなぁ……」
彼の笑みを思い出すだけで、迫り上がってくる吐き気を我慢することが出来ない。
誰も居ないはずだけど、万が一誰かに見られない為に柱の影に隠れて花を吐き出す。
淡い青色の紫陽花の花が、手の平から零れ落ちる程大量に吐き出される。
「はぁっ……はぁっ……しんど……」
ポケットに入れていたポリ袋を取り出し、無造作に花を押し込んでいく。
床に落としてしまった分も摘んで一つずつ袋に入れていると
「花ヲチ病とは……滑稽だな」
いきなり頭上から声が聞こえ、慌てて振り返ると國士が見下すようにオレを見ていた。
明らかにバカにした笑みを浮かべ、花を吐くオレを汚いモノを見る目で見てくる。
「紫陽花か…俺が最も嫌いな花だ。『辛抱強い愛』なんて綺麗な言い方じゃなく、枯れれば茶色く汚らしい『未練がましい迷惑な愛』という方が、この花の花言葉にピッタリなんじゃないか? お前なんかに想われる奴は、その花と同じで可哀想だな」
『最も嫌いな花』
國士の言った言葉に胸が締め付けられる。
嫌悪感を隠そうともせず、オレが傷付くのを良しとした言い方。
オレがどんなに思っても、オレがどれだけ花を吐いても……
國士はもうオレのことなんて愛してはくれない。
愛し合ってた恋人同士なら、簡単に完治しそうな病なのに……
オレのこの願いは、一生叶う事がない。
オレの想い人がお前だってわかったらどんな顔をするだろ……?
今まで以上に嫌われるかな?気持ち悪がられるかな?
もう、最後なんだから触れて欲しかったな……
なら、もういいよな……
「オレの想い人は、貴方の弟の『天河』だよ」
出来るだけ悪い笑みを浮かべて言う。
声が震えそうになるのを笑って誤魔化し、出来るだけ、出来るだけ嫌な笑みを浮かべて、彼に告げる。
國士に本当の気持ちがバレないように……
天河には悪いと思ってはいる。
けど……、もう時間がないから……
こうするしか、國士に触れて貰えないから……
オレには、もう時間がない……
ガタンッ
胸ぐらを掴まれ、思い切り壁に押し付けられる。
ぶつけられた背中が痛い。
胸ぐらを掴まれた時に引っ掻いたのか、肌が痛い。
締め付けられているせいで、息が苦しい……
今まで見た事もないくらい、嫌悪感と殺意の篭った目に内心怯えて震えそうになる。
でも、そんな気持ちは悟られちゃいけない。
出来るだけ、余裕のある笑みを浮かべ、嫌味な言葉を口にする。
「花を吐くくらい天河を想ってるよ。優しい天河なら、オレが想い花病で死にかけてるってわかったら、同情して愛してくれそうだけど…? 死にたくないし、明日にでもオレを抱いてって泣きながら縋ろうかな? 天河なら優しく、優しく抱いてくれそうだし」
オレの胸元を掴んでいる手が怒りで震えているのがわかる。
本気で怒ってるんだ……
大事な弟だもんね……
ギリリと音がしそうな程強く拳を作り、振り上げるのが分かる。
殴られるんだって覚悟して、それでも良いやって思ってソッと目を閉じる。
でも、拳が当たったのはオレの顔の横。
顔の横スレスレを思い切り殴り、壁が揺れる。
「アイツを巻き込むな! 一つだけ、お前の願いを叶えてやる。金でも、地位でも、土地でも、女でも……だから、アイツを巻き込むな」
奥歯を噛み締め、怒りを押し殺した声で耳元で囁かれる。
怒りで震える手から、微かに血が流れていた。
オレのこと、殴ってよかったのに……壁なんて殴るから
でも、これで最後だから……
「じゃあ、アンタが代わりにオレのこと抱いてよ」
日に日に身体の衰えを実感する。
歩くだけでも呼吸がし難くて、階段なんて上がらなきゃいけない時は、人の倍以上の時間が掛かってしまう。
すぐに息が切れて、心臓がバクバクと波打って、酸欠になっているのか耳の奥で轟音が聞こえてくる。
誰かと一緒にいる時は、悟られないように必死に虚勢を張るんだけど、一人になった瞬間倒れそうになったことは一度や二度じゃない……
普通に歩いてる時でも、すぐに立ち止まったり座り込んでしまう。
そんな日が日に日に増えていって……
そろそろ、自分の身体が限界なのを感じていた。
「これで最後かな……」
誰も居なくなった社内を見渡し、電気を消す。
非常階段を示す誘導灯の緑色の明かりと自販機の明かりだけが煌々と光り、暗いはずの廊下を照らしている。
4月半ばだというのに、最近は気温が落ち着いてないから、暖房が入っていても少し肌寒い。
オフィスの奥にある窓ガラスから見える夜景が綺麗で、ここのビルに引っ越してきた時のことを思い出す。
「紫苑、誕生日なのにごめん!!」
オレの誕生日に問題が発生して、深夜近くまで三人でワタワタと問題解決に走り回った。
朝からそうだったせいで、自分の誕生日のことなんてさっぱり忘れてたのに……
國士と天河は、本当に申し訳なさそうに謝ってきてさ……
「と、とりあえず、誕生日おめでとう!」
天河が困ったような笑みを浮かべて言うと、何故か國士が不機嫌になり
「俺より先に祝うなよ!紫苑、誕生日おめでとう。産まれてきてくれて、本当にありがとう」
天河がいるのに、恥ずかしげもなく抱き付いてキスしてくるから、オレの方が慌てちゃって……
天河も気まずそうに笑ってた。
疲れきった身体で、三人で笑いながら缶コーヒーを飲んだっけ……
ここから見える夜景を観ながら、二人がオレの誕生日を祝ってくれた。
「あの時の國士の無邪気な顔、ホントに可愛かったなぁ……」
彼の笑みを思い出すだけで、迫り上がってくる吐き気を我慢することが出来ない。
誰も居ないはずだけど、万が一誰かに見られない為に柱の影に隠れて花を吐き出す。
淡い青色の紫陽花の花が、手の平から零れ落ちる程大量に吐き出される。
「はぁっ……はぁっ……しんど……」
ポケットに入れていたポリ袋を取り出し、無造作に花を押し込んでいく。
床に落としてしまった分も摘んで一つずつ袋に入れていると
「花ヲチ病とは……滑稽だな」
いきなり頭上から声が聞こえ、慌てて振り返ると國士が見下すようにオレを見ていた。
明らかにバカにした笑みを浮かべ、花を吐くオレを汚いモノを見る目で見てくる。
「紫陽花か…俺が最も嫌いな花だ。『辛抱強い愛』なんて綺麗な言い方じゃなく、枯れれば茶色く汚らしい『未練がましい迷惑な愛』という方が、この花の花言葉にピッタリなんじゃないか? お前なんかに想われる奴は、その花と同じで可哀想だな」
『最も嫌いな花』
國士の言った言葉に胸が締め付けられる。
嫌悪感を隠そうともせず、オレが傷付くのを良しとした言い方。
オレがどんなに思っても、オレがどれだけ花を吐いても……
國士はもうオレのことなんて愛してはくれない。
愛し合ってた恋人同士なら、簡単に完治しそうな病なのに……
オレのこの願いは、一生叶う事がない。
オレの想い人がお前だってわかったらどんな顔をするだろ……?
今まで以上に嫌われるかな?気持ち悪がられるかな?
もう、最後なんだから触れて欲しかったな……
なら、もういいよな……
「オレの想い人は、貴方の弟の『天河』だよ」
出来るだけ悪い笑みを浮かべて言う。
声が震えそうになるのを笑って誤魔化し、出来るだけ、出来るだけ嫌な笑みを浮かべて、彼に告げる。
國士に本当の気持ちがバレないように……
天河には悪いと思ってはいる。
けど……、もう時間がないから……
こうするしか、國士に触れて貰えないから……
オレには、もう時間がない……
ガタンッ
胸ぐらを掴まれ、思い切り壁に押し付けられる。
ぶつけられた背中が痛い。
胸ぐらを掴まれた時に引っ掻いたのか、肌が痛い。
締め付けられているせいで、息が苦しい……
今まで見た事もないくらい、嫌悪感と殺意の篭った目に内心怯えて震えそうになる。
でも、そんな気持ちは悟られちゃいけない。
出来るだけ、余裕のある笑みを浮かべ、嫌味な言葉を口にする。
「花を吐くくらい天河を想ってるよ。優しい天河なら、オレが想い花病で死にかけてるってわかったら、同情して愛してくれそうだけど…? 死にたくないし、明日にでもオレを抱いてって泣きながら縋ろうかな? 天河なら優しく、優しく抱いてくれそうだし」
オレの胸元を掴んでいる手が怒りで震えているのがわかる。
本気で怒ってるんだ……
大事な弟だもんね……
ギリリと音がしそうな程強く拳を作り、振り上げるのが分かる。
殴られるんだって覚悟して、それでも良いやって思ってソッと目を閉じる。
でも、拳が当たったのはオレの顔の横。
顔の横スレスレを思い切り殴り、壁が揺れる。
「アイツを巻き込むな! 一つだけ、お前の願いを叶えてやる。金でも、地位でも、土地でも、女でも……だから、アイツを巻き込むな」
奥歯を噛み締め、怒りを押し殺した声で耳元で囁かれる。
怒りで震える手から、微かに血が流れていた。
オレのこと、殴ってよかったのに……壁なんて殴るから
でも、これで最後だから……
「じゃあ、アンタが代わりにオレのこと抱いてよ」
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