白い四葩に一途な愛を

ゆあ

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【白い四葩に一途な愛を】

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恋人であり、オレのパートナーである國士こくしと喧嘩をした。

あの格安アパートでのプロポーズを受けてから3年。
喧嘩することはあっても、それは滅多にあることじゃないし、すぐに仲直りするようにしてきた。


ただ……、最近、些細な事で喧嘩する事が増えた。
忙しい彼をサポートするのがオレの役割だから、それは別にいい。
疲れて苛立っているなら癒せるようにするし、マッサージでも気分転換でも、國士こくしを癒すことが出来るならなんだってやる。

仕事でも、私生活でも、彼の役に立てるなら、それがどんな事でもサポートしてみせる。
そう思っていたのに、何故か最近、國士こくしがオレに関する事だけを覚えていない日が増えた。

まだ30になったばかりなのに、もしかして若年性健忘症なんじゃないかって疑ってしまう。
國士こくしに限ってそんなことはないって思うけど……
それでもやっぱり、頻繁にオレのことを忘れる彼に不安がないって言えば嘘になってしまう。
オレに関すること以外は至って普通で、寧ろいつも以上に調子が良いように思えるからこそ、「なんで?」って気持ちが日に日に大きくなっていって……
話せば思い出してくれるし、何故忘れていたのかと本人が一番気にしているのがわかっているから、それ以上強く言う事が出来なかった。

でも、それが続いたり酷くなっていたりすることに、我慢出来なくなって……
この日は、どうしても耐えられなくなって……
國士こくしが傷付くってわかっていたのに、オレが一方的に責め立てるように言ってしまった。

「ごめん、紫苑しおん。本当に、ごめん」
普段、ハッキリ物事を言う彼が、眉を下げて悲しそうな顔をして謝罪してきた。
泣くのを堪えているような、本当に苦しそうな表情に胸が苦しくなる。
「今日は、近くのホテルに泊まって頭を冷やしてくる。明日、会社で会った時にはちゃんとするから……本当に、ごめん」

上着とスマホ、財布だけを手に出て行く彼を止めることが出来なかった。

「素直に行かないで欲しい」って言えばよかったのに、オレの小っぽけなプライドがそれを許さなかった。
一番傷付いているのは國士こくしだってわかっているのに、彼が一番傷付く事を口にしてしまって……
出て行く彼の寂しそうな背を見送ることしか出来なかった。

扉の閉まる音を聴いて、何故かもう会えなくなるじゃないかって不安が頭を過ぎるも、何故か追い掛けることすら出来なかった。


ダイニングのテーブルには、2人分の食事が手付かずのまま残されている。
疲れて帰ってきた彼に食べて貰いたくて、彼の好物であるサバ味噌を作ったのに……
國士こくし、ホテルでちゃんと食べてるかな……」
食事に無頓着な彼が、喜んでオレの料理は食べてくれていた。
いつも「美味しい」って言ってくれて……
初めて作って失敗した時も、「これはコレで限定の味」って変な慰めもしてくれて……

彼と一緒に食べるから……
彼が「美味しい」って言ってくれるから……

オレは、料理を作るのが好きになった。

それなのに……
1人、ポツンと椅子に座り、自分の分の料理を眺めるも一向に食欲は湧かない。
「はぁ……」
深い溜息を漏らし、仕方なく2人分の食事にラップをしていく。
誰にも食べて貰えなかった寂しい料理を冷蔵庫に入れ、扉を閉めた。


やらなきゃいけない事はたくさんあるのに、やる気が出ない……
お風呂も、1人で入るのが寂しくてシャワーだけで簡単に済ませてしまった。

リビングにあるソファーに深く座り、膝を抱えるように小さく蹲る。
何をするでもなく、ただボーっとしてしまう。
ひとりぼっちでいると、徐々に頭が冷えてきて、さっき國士こくしに言ってしまった言葉の数々が頭の中を巡る。


『オレのことどうでもいいって思ってんだろ!』
『最近なんで無視すんだよ!』
『オレのこと、嫌いになったんだろ!』
『男のオレに飽きたってことだろ!』
『浮気してるんじゃないのか?』
『だって、本当のことだろ! オレなんかと結婚しなきゃよかったって! 本当は後悔してるんだろっ!』


言い過ぎてしまった言葉の数々。
國士こくしの傷付いた顔……
思い出すだけで胸が締め付けられる。
膝の上にコテンと頭を預け、いつも隣に居たはずの彼の幻を見る。

いつもだったら、もう仲直りしているはずなのに、今は彼が居ない。
仲直りとして、ギュッと強く抱き締め合って、沢山キスをしてくれるのに、今はひとりぼっち……

「あんな思ってもないこと、あんな酷いこと……言うんじゃなかった……」
今更後悔しても、時間は巻き戻ってはくれない。
ただ、寂しさだけが募っていく。

國士こくしに謝らなきゃ……」
國士こくしが使っていたクッションを抱き締めると、ほんのりと彼の匂いがした。
ウッディーな落ち着いた感じの香り。
國士こくしに似合うってオレが一緒に選んだ香り……

國士こくしに、会いたい……今すぐ、謝りたい……」
寂しさと罪悪感からポツリと呟くも、時計を見るともう0時を回っている。
今から謝りに行こうにも、時間が時間なだけに電話をするのも憚られる。
小さく溜息を吐き、仕方なく明日出社した時に謝ろうと決意するも、寂しさを拭い去ることなんて出来なかった。


明日の朝、朝一で、誰よりも早く國士こくしに会って謝ろう。
ちゃんと仲直りして、今日食べるはずだった夕飯を一緒に食べよう。
大丈夫。きっといつもみたいにギュッて抱き締めてくれる。

明日の夜は…オレからお誘いしてみてもいいし……
國士こくしが喜んでくれること、いっぱいやろう。
そうしよう! 


明日へのことを決意すると少しだけ心が軽くなったような気がした。
広いクイーンサイズのベッドに横になると、また寂しさが込み上げてくる。
いつも2人で寝るはずのベッド。
國士こくしのお気に入りのベッドのはずなのに、今夜はオレ1人だけ……


早く謝ろう。
明日の朝、一番に謝って仲直りしよう。


この願いが叶う事は一生ないのだと、この時は何も知らなかった。
あの幸せな日々が壊れ始めていたなんて、気付けなかった。

こんな事になるなら、あの時喧嘩なんてしなければ良かった……
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