貧乏Ωの憧れの人

ゆあ

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あの日から4年
オレはずっと追いかけていた夢は諦めた
夢なんて叶わないものだから

あの日、あの人に会って決心した
拓也の大切な人
拓也とお似合いのあの綺麗なΩの女性
付き合ってたのなら言ってくれたら良かったのに…
オレなんかには構わず、好きな人を大切にしたら良かったのに…

もう夢なんて見ない
神様は、オレのことが嫌いみたいだから

夢なんて持っても、どうせ叶えてなんて貰えない


だから、大学も中退した
学費とかに回す余裕なんてないから…
オレのコトを知る人が誰も居ない場所に逃げるように引っ越した
元々友人なんて居なかったから、居場所を探られたり聞かれることなんてない

育ててくれた施設の人には、就職が決まって、その仕事で引っ越すって伝えた
何処に引っ越すかなんて決めてなかったから、落ち着いたら連絡するって嘘を付いて…

だから、あの日から連絡なんて取ってない
誰もオレのことなんて知らない場所で人生をやり直そうって決めたから


誰もオレのことなんて知らないから、周りの目を気にせずどんな仕事もやろうと思った
嫌だったこともお金を貰うためだったら何でもした

高卒の、番も居ない男性Ωに、社会はとても冷たかった
まともな就職なんて出来るはずもなく、雇って貰える仕事は限られてる

深夜の清掃や、客引き、身体を売ることもやった…
Ω専用の風俗も、デリヘルも…
昼間の仕事は、もう少ししたら再開するつもりだ
保育所とか預けれるようになれば、もっとマシな仕事ができる
そしたら、もう少し、もう少しだけ…マシな生活が出来るはずだから…

お金を貰えるなら、生活費を稼げるなら…
オレの出来るコトならなんでもやった

辛くないか?って言われたら、笑って誤魔化した
オレのことを心配してくれる常連の優しい人もいた
ご飯とか服とか買って来てくれる人もいた
Ωだからって高圧的な人も沢山いた


それでも、ただ、必死になっていた
二人で生きていくために
この子が幸せに笑えるように

この子の為なら、何でも出来た
この子の為なら、オレはどうなったっていい
悲しいのは慣れてるから
痛いのは…我慢すればいいから
苦しくても、お腹が空いても、辛くても…
この子が笑ってくれるならなんだっていい
オレの全てはこの子の為にあるから


だから…
拓也とは、あれから会ってない
公園で会ったあの日を最後に、拓也には会えなかったから…
もう二度と会わないように、自分から逃げたから…


だから、オレ孤りでこの子は育てる
この子は誰にも渡さない
施設になんて入れない
オレがちゃんと孤りでも育ててみせる
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