【完結】世界で一番愛しい人

ゆあ

文字の大きさ
上 下
18 / 29

18

しおりを挟む
車で郊外にある小さな診療所へ向かった

辺鄙な所にあるわりに、待合室にはそこそこの患者が座っており、来ている人は何処か息を潜めている感じだった

「アイツにミツを早めに診てやってくれ、と伝えてくれないか?」
受付に居たスタッフに言付けを頼むと、スタッフがミツを心配するように一言二言、話しをしてからアイツの元に向かって行った
仕事のこともあるから、ここのスタッフとは多少面識を作らせておいて良かったと、内心ホッとする

少し待ちはしたものの、他の患者よりも優先して呼ばれることになった



待合室から少し廊下を進んだ先にある診療室
扉を開けようとした瞬間、先に自動で扉が開かれ中からウザい声が響いた

「みっちゃん、大丈夫だった?めちゃくちゃ心配してたんだよ。さっ、早く横になって楽にしていいからね」
長髪を適当に結んだ一見胡散臭そうな医者が、ミツの手を優しく引いて丁重にベッドへと案内するも、ミツは横にならずに俺の隣にちょこんとくっ付いて座る

「可愛い顔にも傷作っちゃったんだね。しんどかったね。
今は落ち着いてる?無理しちゃダメだよ?」
俺の存在を完全に無視して、ミツの傷口を確認している

「これ春輝がやったの?60点。まぁ、応急処置ならいいか
みっちゃん、滲みるかもしれないけど、出来るだけ痕が残らない為にも後で治療しようね
……それで、今回はかなりしんどかったんじゃない?何回発情期ヒート来ちゃった?」
さっきまでのテンションとは裏腹に、真剣な眼差しと口調に変わり、緊張感が漂う

「4、回くらいかな...2回目までは覚えてるけど、3回目から…意識も朦朧としてて…よくわからなくて…薬貰ってたもの、全部使っちゃって…」
怒られると思っているのか、俯いて震えるミツを慰める様に手を握り、頭を抱き寄せて大丈夫だと耳元で囁いてやる

「とりあえず、栄養失調と脱水、オーバードーズしてるのはわかったから。あと、気になるところもあるから色々と検査はしようか。
大丈夫、怒ってないよ。ただ、もっと早く連絡して欲しかったかな。
オレもだけど、スタッフのみんなもみっちゃんのことすっごく心配してたから。
後で裏の子達にも会いに行ってあげてね」
弟や子どもでも見るような慈愛に満ちた目でミツを見つめ、頭を撫でている
コイツに先に連絡した時も心配していたのを知っているだけに、ミツに触るな。とは、言いづらい…


「で…、春輝は車で待機。ここ、Ωの子専用だから、お前みたいなスパダリなα様がいると毒にしかなんないし」

ミツには優しく言うくせに、俺には当たりがキツい
さっきまでの慈愛の籠った視線はどこに行った?と言いたくなる程、俺には適当で、さっさと出て行けと言うように手をシッシッと振っている

「はいはい。センセー様が邪魔だって言うなら、俺は車で待機しときますよ。
ミツ、大丈夫だから。診察が終わったら戻って来るから、ちゃんと調べて貰ってな?」
ミツの額に自分の額を当て、目を合わせる
小さく頷く姿にホッとし、言われた通り車の中で、検査が終わるのを大人しく待った
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

俺はつがいに憎まれている

Q.➽
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...