【完結】世界で一番愛しい人

こうらい ゆあ

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時間の感覚がない、今日はいつなんだろ...
頭に白いモヤがかかった様に働かない
見慣れない天井に綺麗なシーツ、自分の家ではないことだけはわかった


「いたっ...」
指先に痛みを感じ、手を見るといくつかの指に丁寧に包帯が巻かれているが、少し動かすだけでも針を刺されたようにズキズキと痛む

指だけではなく、腕や脚、背中や頬にも治療して貰った跡があった

「また、傷を作っちゃったんだ…シゲルさんに、嫌われちゃ……もう、嫌われてるよね…」
自分で言ってて、自嘲的な笑いが出てしまう



ハルくんに会った直後から、またすぐに発情期ヒートが来た
3ヶ月経ってないのに…
次の発情期ヒートまでは、もっと余裕があるはずなのに… 

シゲルさんに連絡したけど、返事は貰えなかった
どれだけ電話をしても繋がらない
どれだけメールをしても見てもらえなくて…

いつもみたいに薬を飲んで、残されていたシゲルさんの服で1度目は凌いだ



2度目は、その3週間後
やっと仕事も落ち着いた頃、アレは来た…
何か、身体が焦っているような…
死ぬ前に、子孫を残そうっていう本能なのかな?
そんなことされても、無駄なのに…
ただ、苦しいだけなのに…
通常よりも発情期ヒートの期間が短かったけど、壊れてしまいそうな3日を過ごすしかなかった



3度目がいつ来たのか覚えてない
その辺りから意識が混濁してきたと思う
震える手で、何度も、何度も、何度も、シゲルさんに連絡したのに…
辛くて、苦しくて、悲しくて、恨むことしか出来なかった
会いたいのに、僕のところには帰ってきてくれない
シゲルさんも、運命のあの子も、みんな、みんな、嫌い…大嫌い…
どうして…僕だけがこんな苦しいの
どうして…僕だけひとりなの
浮かんでは消える呪いの言葉
血の臭いが気持ち悪い



最後は、もうわからない…
ただ、ハルくんに会いたかった
シゲルさんじゃなくて、ハルくんに…
ずっと、ずっと好きだったハルくん

僕じゃ釣り合わないのはわかってたから…
おじさんがハルくんにお見合いをさせるって言ってたのを聞いた
ハルくんと僕では番にはさせられないって、言われた
やっぱり僕じゃダメなんだって思った


シゲルさんは、どこかハルくんに似てて…
優しくて…、ハルくんの笑った顔にちょっとだけ似てて…

こんなんだから、嫌われちゃったのかな…

ハルくんの身代わりみたいに好きになったから…


だから、ハルくんに抱いて貰った夢を見ちゃったのかな…
叶わない、諦めなきゃいけない気持ちが、出ちゃったのかな…

「ホント、僕って最低の奴…こんなんだから、シゲルさんにも愛想を尽かされるんだよね…」



「でも、ここ、どこだろ....」
自分の家ではないことはわかる
でも、病院ってわけでもなさそうで、部屋の中はシンプルだけど、僕たちの家みたいな寂しい感じがしない
それに…とても落ち着く、知ってる人の匂いがした


まだ微熱が残っているのか、身体は怠くて動きたくないし、少し動くだけでも傷に当たってしまって全身が痛い



「起きていたのか、大丈夫か?辛いところとか、あるよな...」
困ったような笑みを向けてくれるよく知った人
あぁ、ここ、ハルくんの部屋なんだ...

この匂い、ハルくんの匂いだから落ち着くんだ…

ぼんやり、自分のいる場所がわかり安堵したものの、番の彼が迎えに来てくれたわけではない事に少し寂しさと当然か…という諦めが胸の中に渦巻く

「ハルくん、どうして?あれ?えっと…3回目?4回目?のヒートが来て、僕、ひと...あっ...」
ハルくんの眉間に深い、深い皺が出来るのが見える
つい口を滑らしてしまったのを飲み込むように手を口許に持って行くも
「イタッ!」
指先の痛みに顔をしかめてしまう

小さな溜息を漏らしながらも、心配そうに僕の側に来て痛む手を撫でてくれる
ハルくんに触って貰えるだけで、手の痛みが引いて行くような気がした
「ミツ、あまり無理すんなよ…。爪も何個か剥がれてたし、身体もボロボロで…本当に心配したんだからな…」
本気で心配してくれている顔に、胸がギュッとなる


何か、言い訳しなきゃ…


「えっと…なんか、薬が全然効かなくって…風邪かな?この前、寒かったから…体調崩しちゃったみたい。
また、ハルくんに迷惑かけちゃった...?いつも、ごめんね…。ホント、ただの風邪だと思うから…」
必死に思い付いた言い訳を口にするも、眉間の皺は深くなるばかりで

「えっと、こ、この傷は…なんか、虫?に刺されちゃったから痒くって…
なんの虫だろ?殺虫剤撒かなきゃなぁ~
だから、痒くって、必死に…かい、て…」


ハルくんの表情が変わらない
ずっと、怖い顔をしてる…
僕の言い訳が嘘だって、バレちゃってるから…


「ミツ…」
ハルくんの、どこか悲しそうな声にこれ以上何も言えなくなってしまった
俯いて、包帯の巻かれた手を見つめる

「ごめん、なさい…
アレも、夢じゃないんだよね…」
夢だと思ってた
自分に都合の良い夢だと…

ハルくんが、僕なんかを抱いてくれるわけないって…
僕とハルくんはただの幼馴染なだけだから

僕だけが勝手に好きになって、いつか番にして欲しいって夢見てた

ハルくんの家のことも、ハルくんがすごい人って事もわかってたのに…


「ご、ごめんね。あの…忘れて欲しいなぁ…あんな、汚い僕のこと…
ハルくんには、ちゃんとした素敵な人が居るのに…居る、はずなのに
…」
言ってて胸がズキズキと痛む


ハルくんに、恋人なんて作って欲しくない…
番なんて、作って欲しくない…


なんて自分勝手な願望だろう
自分には、番が居るくせに……
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