【完結】世界で一番愛しい人

ゆあ

文字の大きさ
上 下
4 / 29

4

しおりを挟む
「何時、だろ……」

カーテンの隙間から入って来ていた光も、今は暗闇が部屋を埋め尽くしている
灯りの灯らない部屋をボーっと眺めていると、なんとなく部屋の全貌が見えてくる

変わらない、乱雑な部屋
2人の寝室だったはずなのに、僕1人しか使われていない部屋
発情期ヒートの度に、彼の服を集めて巣を作り、終わったら洗濯をする
洗濯する度に、彼の匂いは薄れ、今は…僕の匂いしかしない…


誰の服で、巣を作っているんだろう…
誰の為に、巣を作っているんだろう…




ガチャッと玄関が開く音が聞こえるが、起き上がる元気も動く気力ももうない


シゲルさん、帰ってきてくれたのかな...
今日は、一緒に居てくれるのかな…

せめて、シゲルさんの匂いがする服、欲しいな……



静かに開かれた寝室の扉
中の様子を伺う人影は、愛しい人のものではなかった



よく見知った幼馴染
僕の大切な人
僕の、密かな初恋相手…



シゲルさんじゃなかった事への虚しさと、ハルくんだった事の安堵感
「ミツ、大丈夫か?」
優しい彼の声に涙が溢れ出してしまう

「…ハル、くん……」

ベッドの周りに散らされた、抑制剤が入っていた梱包シートのゴミ
ちゃんと片付けなきゃって思ってたのに…
薬を無我夢中で飲むしか出来なかった

ハルくんの溜息が聞こえる
「また、こんなに飲んじゃったのか...
気持ち悪いだろ?吐けそうなら少しでも吐いてしまえよ?」
優しいハルくんだから、こんな汚い部屋を見ても怒らずに優しく接してくれる
ちゃんと、片付けれてないのに、怒らずにいてくれる

「ミツ、気持ち悪いのか?」
心配そうに顔を覗き込んで、頬に触れられそうになった瞬間、微かに感じるα のフェロモンについ拒絶反応を出してしまい、触れようとしたハルくんの手を叩いてしまう

「っ、あっ、ごめっ...ごめ、なさい…でも、触らないで...」

番ではないαから触れられることへの生理的嫌悪感
本能が、番以外のα を拒絶してしまう

ハルくんの手を叩いてしまったことへの罪悪感が募るものの、これ以上近付かれることすら身体が拒絶してしまい震えが止まらない



「また、アイツは帰って来ないのか...」
僕の様子を見て、怒りを含んだハルくんの声に慌ててしまう

「ハルくん、ごめん。ごめんね…
えっと、違うから…シゲルさんは、悪くないから
あの子も今、発情期ヒートがツラいらしくて...、側に居てあげたいからなんだって…
だから、えっと、僕の発情期ヒートが被ったのが悪いだけだよ
シゲルさんは、何も悪くないから」


彼が居ない事実を認めたくないものの、ハルくんに彼が怒られるのは嫌でフォローを口にする

自分で言った言葉に落ち込んでしまうも、気持ちを隠すように笑みを浮かべる
ちゃんと笑えてる自信はないけれど、これ以上、シゲルさんが怒られるのは嫌だから…
ハルくんに、シゲルさんの悪口を言って欲しくないから…


また一つ、深い溜息を吐き出すのが聞こえる
「食べれそうなモノがあれば言えよ?あと、俺に出来ることならなんだってやるから」
困ったような、苦しそうな笑顔でハルくんは言ってくれる


いつも優しいハルくん
番が出来て、結婚した僕にもずっと優しく接してくれるハルくん
いつも、側に居てくれて、優しい大好きな人


発情期ヒートで買い物すらままならなかった僕の為に、色々買い込んでくれた袋をリビングのテーブルに置いといてくれる
スポーツ飲料だけ、ベッドの横に置いといてくれる

番である彼が居ない理由も、僕の状態も、何もかもわかってくれて、いつも気にしてくれる

優しくて大好きな人。

幼馴染ってだけで、α のハルくんに迷惑を掛けてしまってるのはわかってるけど、他に頼れる人がいないから…

ハルくんに番が出来るまで…
ハルくんに恋人が出来るまで…

ワガママだってわかってるけど、ハルくん以外に頼れる人が思い浮かばなくて…


時々、ハルくんの運命の番が自分だったらどんなに良かっただろうと思ってしまう

僕には、今番であるシゲルさんがいるのに…
そんなの、許されないってわかってるのに…

でも、1人で、番である彼を待ち続ける日々に
発情期の間、ひとりぼっちで堪える日々に…

今の番関係がなかったら、もっと変わってたかも…って思ってしまう

運命の彼が、シゲルさんを見つけなきゃこうならなかったのに…
運命の番という、出会いが憎らしく、それ以上に悲しくなる

「僕って、ホントに嫌なヤツだよね…ごめんね」
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

俺はつがいに憎まれている

Q.➽
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...