目は口より愛を語る

こうらい ゆあ

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転校生が来てから、僕が安息出来る場所はなくなった
昼休みは逃げる様にこっそり校舎裏に行ったのに、速水はやみ君は僕を追いかけて来て話し掛ける
おおとりくん、下の名前なんていうの?マスク、いつもしてるんだね」
人懐っこい笑顔で問い掛けられても困る
僕なんかに構ってないで、クラスのみんながいる所に居ればいいのに…

みんな、速水はやみ君と仲良くしたくて機会を伺ってるのに…
僕なんかに構わないで欲しい
彼が僕に構うから、最近は異様な嫉妬を含んだ目でクラスの人達に睨まれる


速水はやみ君は、みんなが予想した通り、αだった
α……
眉目秀麗、人生勝ち組の人…
勉強やスポーツも他の人よりも優れている人
僕のパパを連れて行ってしまった人と同じα…

そんな人が、βの中でも底辺でしかない僕なんかを構わないで欲しい
αと釣り合うのは、同じαの人だ
それか、少ないけどΩの人達…

昔大好きだった絵本で見たαとΩのお話みたいに、αの番になれるのはΩだけなんだから…
パパもそうだった…
あれだけ、お父さんのこと愛してるって言ってたのに、運命の番が現れたらあっさり僕とお父さんを捨てて出て行ったんだから…
Ωはβとは結ばれない
αもβなんて相手にしない

βは女性でなければ子どもを産むことも出来ないから…
βはβと付き合って、結婚するのが1番幸せになれるんだ…

僕みたいなβの中でも底辺中の底辺が、どれだけ望んでも幸せなんて来ないだろうけど……

同じβでも、αに近い優秀な人やΩみたいに可愛い人のところに行って欲しい…
僕のことなんて、ほっといて欲しい…


朱鳥あすかって名前で合ってる?可愛いね、朱鳥あすか…」
どれだけ端に寄って逃げても隣に座られる
壁と速水はやみ君に挟まれて、逃げたいのに逃げれない
お昼ご飯を食べたいのに、彼がいるせいでマスクを外せない
マスクを外したら、顔を見られちゃうから…
牛乳のパックにストローを刺し、マスクの隙間から飲んで空腹を誤魔化す

「いつもパンなんだ?今度オレがお弁当作って来てあげようか?
あ、嫌いなモノとかある?朱鳥あすかと一緒に食べたいな~」
ニコニコ笑いながら僕に纏わり付いてきて、勝手にお弁当すら作って来ようとする
「あ、コレ食べてみて?オレが焼いた卵焼き。ちょっと甘いめのやつだけど…」
自分のお弁当に入っている卵焼きを箸で半分に割り、マスク越しの口元に近づけられる

「………」
卵焼きと彼の顔を困惑した顔で交互に見るも、速水はやみ君はニコニコしながら食べてくれるのを待っている
マスクを汚されるのは困るから、仕方なくそばかすを隠すためにマスクの下側を持ち上げ、口元だけ晒して卵焼きを食べる


口内に広がる優しい甘さ
ほんの少しだけ醤油が入っているのか、冷めていてもしっかり味が付いていて美味しい
久々に食べた、人の手料理


美味しくって、無意識にぽわんと幸せそうは顔をしてしまっていたのか、速水はやみ君が嬉しそうな笑みを浮かべ、僕の顔を眺めていた

見られていたことが恥ずかしくて、慌ててマスクを戻し顔を背ける
「……ご馳走様、でした。でも、もうほっといて…僕に、付き纏わないで」
勇気を振り絞って出した声は、消え入りそうな程小さかった
必死に思ったコトを言葉を口にしたけれど、酷い言い方になってしまって後悔する

恐る恐る顔を上げて彼を見ると、目を見開いて驚いた顔で固まっていた


酷い言葉を言ったから、怒られるかな?
さっき、卵焼き食べさせてくれたのに、こんな言い方しちゃったから…
怒鳴られたら、どうしよう…

不安ばかりが募ってくる
でも、これ以上仲良くしようとしないで欲しい
僕なんかに構わないで欲しい


「か、か、可愛い!朱鳥あすか朱鳥あすか!すっごく可愛い声だね!もっとオレと話しをしよう?」
目をキラキラさせて両手を握り締めて言われる
つい「ヒッ」っと喉を引き攣らせてしまうも、速水はやみ君はお構いなしで
「あ、ごめんっ!朱鳥あすかはΩだからオレのこと警戒してるんだよな?それは仕方ないよな…
でも安心して!絶対に朱鳥あすかが嫌がることはしないから!」
慌てて握った手を引っ込めてくれるものの、離れてはくれない

どこか自信ありげに言ってるけど、僕はこうやって側に居るのも嫌がってるのに…
それに、僕はΩじゃない…
勘違いを訂正しようにも、言葉に出来ない…

困ったように眉を下げるも、彼の後ろには大型犬のようなフッサフサの尻尾の幻影が見えてしまう…
喜んでくれてるのに、否定しちゃダメだよね…

「明日、お弁当作ってくるから一緒に食べよう?此処じゃちょっと暗いし、空き教室か屋上に行こうか」
勝手に明日の昼休みの予定を決められてしまい困惑する
「嫌だ」って、「迷惑だ」って、言えればいいのに…

僕は自分の気持ちを言葉に出来ない
また余計なコトを言って傷付けてしまうから…

小さく溜息を漏らすと同時に、お腹の虫がきゅうぅぅと小さく鳴った
朱鳥あすか、パン食べないと昼休み終わっちゃうよ?」
心配そうに言ってくる彼を軽く睨み付ける
誰のせいでご飯を食べれてないと思ってるんだ…


彼が転校してきてから、毎日毎日付き纏われてるせいで、僕は昼食を食べ損ねている
三毛猫のみぃちゃんも、彼を警戒しているのか出て来てくれない

僕の唯一の安息の時間なのに…
彼が来てから、僕は心休まる時間がなくなってしまった
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