婚約破棄されそうですが、そんなことより私は眠りたい

小倉みち

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休日

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 どうやら、婚約者である公爵子息モーリスと男爵令嬢アビゲイルが付き合っているらしい。


 という事実を知った私。

 正直死ぬほどどうでも良いし、勝手にイチャイチャしてもらって構わないと思っている。

 そんなことより、私は眠っていたかった。


 しかしまあ、なんか聞いたことのある関係性だなあ。


 婚約者のいる公爵子息と男爵令嬢の、危険な恋愛ねぇ……。


「お嬢様」


 休日、なんのしがらみもなくぐっすりと眠っていた私を起こしたのは、せっかちな性格のメイド――シエンナだった。

「う、ぅうん……」

「起きてください、お嬢様。もうお昼ですよ」

「えー……」


 そんなこと言われても。

 私、ずっと眠っていたいのに。


 私の異常なまでの睡眠欲を、初めはどうこうしようとしていた家族も、最近では完全に諦めてしまっている。


 それはほかの使用人たちも同じで、その中でも唯一、長年私についてくれているメイドのシエンナだけが、どうにかして私を更生させようと動いていたのだ。


「不健康ですよ、アナスタシアお嬢様」


 シエンナは部屋のカーテンを開ける。

 眩しい日光が顔に当たり、私は思わず飛び起きた。

「もう、ちょっと! せっかく寝てたのに」

「駄目です。ちゃんと起きてください」


 シエンナは私から布団を奪おうと、布の端を握りしめた。

「朝早く起きて日光を浴びて、朝から活動するのが人間らしい行動ですよ」

「眠ることは、人間らしくないわけ?」

「お嬢様は寝過ぎです」


 私は必死で布団を握りしめ、シエンナと綱引きのように引っ張り合う。

「ほら、本でも読んでくださいよ! あと食事!」

「嫌!」


 これが、休日の私の日課だった。


 ――が。


 私はシエンナの馬鹿力に、毎回勝てないのだ。


 引っ張り合いをしてすっかり疲れてしまった私に、息の上がったシエンナは本を手渡す。

「ほら、これ。私のお気に入りの本渡しますから」

「えー」


 シエンナの本の趣味、合わないのよね。

「私、少女小説なんて趣味じゃ――」

「なんだって良いんですよ。さあ」


 無理やり押しつけられ、仕方なく私はそれを開く。

「これ、人気なんですよ。巷じゃ」

「へー」

「男爵令嬢が公爵子息と恋愛するんですよ。彼には相手がいるんですけど」

「浮気じゃない、それ」

「でも、その婚約者ってのがものすごく高飛車で性格悪くて、それはもう最悪なんですよ」

「へー。……って、あれ?」


 私は気づいた。

「どうされましたか?」

「一緒じゃない、この本と」

「一緒?」


 この本の内容と今の状況、結構似通っている気がする。
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