どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち

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第2章

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 私は余所行きのドレスに着替え、再度客室を訪れる。


「お待ちいただいて申し訳ありません」


 私の姿を見ても、ウィリーの表情は少しも変わらなかった。


「凄く素敵なドレスだね。似合うよ」

「お褒めいただき、光栄ですわ」


 私は彼の真向かいに座る。

「先ほど屋敷の者が紅茶をお持ちいたしましたが、お口に合いましたか?」

「うん。高級な飲み物って感じがしたかな」

「それは良かった。使用人も大いに喜ぶことでしょう」

「ふふ」

「うふふ」

「……」

「……」


 お互い黙って、相手の顔を探る。


「それで」


 先に沈黙を破ったのは、ウィリーの方だった。


「君はいつから気づいていたんだ?」

「面白いことをおっしゃいますね、ウィリアム殿下」

 私は口に手を当てて笑う。

「私は、あなたに忠誠を誓う貴族の端くれですから。あなた様のことは当然存じておりますわ」

「……君とは、一度も会ったことがないけれど」

「まあ、さすが殿下。一度会った人のことは全員覚えていらっしゃるんですね」


 会話の節々に、嫌味と皮肉を混ぜ込んでやった。


「君が僕を屋敷に呼んだ理由は、だいたい検討がついているよ」

 と、ウィリーもとい殿下は言った。

「あの子どもたちのことだろう?」


「わかっていただけて何よりです」

 私は言った。

「あの子たちは庶民。万が一のことがあったとき、責任を取れるとお思いでしょうか?」

「それは君にも当てはまるんじゃないかな」

「私は家族から見放されておりますから。私に何があろうとも、あの人たちはなんの行動も起こさないでしょうね」

「そうか……」


 ウィリアム殿下は少し目を伏せた。

「わかった。もう彼らとは遊ばないことにするよ。よろしく伝えておいてくれ」

「承知いたしました」


「それと」

 ふと、寂しそうな顔をする殿下。

「僕は心から、みんなと友達になりたかった。それは本心なんだ。王子としてじゃない。普通の子どもとして、振舞ってみたかったんだ」


 その哀愁漂う姿に、少し私は罪悪感を覚えた。


 彼もまた、自分の立場に苦しんでいるのだろうか。


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