上 下
133 / 135

話②

しおりを挟む
 フィルは続ける。


「あんた、放って置くと俺の話全部なかったことにするだろ?」

「い、いえ、そんなことは……」


 否定しようとしたが、言葉が途中で止まる。


「お嬢様は馬鹿だから、ちゃんと俺の方から催促しないと忘れるだろ?」


 そんなことはあるかもしれない。


 お嬢様は馬鹿だと決めつけられるのは癪に障るが。


「で、どう? 少しは俺のこと考えた?」

「……はい」


 私は頷く。

「どう思った?」

「……」


 なんて言えば良いかわからなかった。

 正直、まだ答えは出ていないのだ。


 ちゃんとティファニーに相談したとはいえ、彼女にもアドバイスを貰ったのにも関わらず、私の中でスッとあるべき場所に落とし込めるような、しっくりくる解は見つかっていない。


 ただ。

 これが分岐点なのだろうということは、鈍感な私でもわかった。


 ここを間違えれば、きっとフィルは私の知らない遠くへ行ってしまうのだろう。

 それだけはどうしても避けたかった。


「……正直言うと」

 私は言った。

「私の中で、かつての殿下への想いとフィルに対する感情が同じかどうかはわかってないの。多分違うと思う」


 フィルは真剣な表情で私の話を聞いている。

「私は、フィルを男の人として好きかどうかわからない。だけど」


 私は唾を飲み込む。

「私はね、フィルが他の人と――新しく入ってきたメイドたちと楽しそうに話をしているのが嫌だった。フィルが取られたみたいで。それは本当に嫌だったの。多分嫉妬だと思う」

「……つまり」


 フィルは話をまとめた。

「俺のことは男として見ているかどうかわからない。だが嫉妬はしていると?」


 私は無言で頷いた。

「俺の気持ちには答えられるかわからないけど、他の女とは話してほしくない? どこにも行ってほしくないだって?」

「ええ」

「そうか……」


 私は嘘がつけなかった。


 フィルに対して失礼だというのもそうだし、彼と私は長い付き合いだ。

 小細工をしたところで、どうせバレてしまう。

 だから私は、正直な気持ちを打ち明けるしかなかったのだ。


「なるほどね」


 フィルは腕を組んだ。


 私は身を縮こませる。


 きっと罵られるのだろう。

 怒られるのだろう。


 そう覚悟していたが。


 聞こえてきたのは、フィルの大きな笑い声だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁 (さるばみ もりしげ)
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。

夢草 蝶
恋愛
 子爵令嬢のエレインにはライという婚約者がいる。  しかし、ライからは疎んじられ、その取り巻きの少女たちからは嫌がらせを受ける日々。  心がすり減っていくエレインは、ある日思った。  ──もう、いいのではないでしょうか。  とうとう限界を迎えたエレインは、とある決心をする。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶
恋愛
 伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。  しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。  翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...