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行方不明 ~フィル視点~
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俺は頭が真っ白になった。
動悸がする。
悪い方の。
「どういうことだ?」
公爵が声を荒げる。
「帰ってこない? 御者はどうした? どこかに出かけてるのか?」
「……御者は戻ってきております」
と、メイド。
「なんだと?」
「お嬢様がいつまで経っても馬車にいらっしゃらないので、一度報告までにと――」
「馬鹿者!」
今までに見たことのない怒鳴り声。
メイドはビクッと身体を強張らせる。
「報告するのは大事だ。だがそれよりもスカーレットの無事を確認するのが先だろう! 御者はどこだ? 今すぐにここへ連れてくるんだ!」
「は、はい!」
ほとんど悲鳴に近い返事をしたメイドは、すぐさま部屋から飛び出していった。
公爵はそれを見届けると、膝から崩れ落ちるようにしてソファに腰かける。
言葉にならないうめき声をあげ、頭を抱えた。
「……私が、私が誰も護衛につかせなかったばっかりに。完全に油断していた」
「あの子が寄り道なんてするはずがない。もしするなら事前に連絡が行くはずだ。……ああ、全部私のせいだ。フィルの他に新しい護衛を用意するのが遅れてしまった」
俺は、なんて公爵に声をかければ良いのだろうか。
公爵様は悪くない?
本来は俺がお嬢様を守る立場で、そう約束した。
それを違えたのは、ほかならぬ俺だ。
俺がスカーレットお嬢様を危険に晒したんだ。
この俺が――。
「フィル!」
後ろの方で、公爵の声が聞こえた。
「どこへ行く! お前が外に出る必要は――」
だが、俺はそれに返事をしなかった。
返事をする余裕などなかった。
気づくと、俺は屋敷から飛び出してどこかへ向かっていた。
動悸がする。
悪い方の。
「どういうことだ?」
公爵が声を荒げる。
「帰ってこない? 御者はどうした? どこかに出かけてるのか?」
「……御者は戻ってきております」
と、メイド。
「なんだと?」
「お嬢様がいつまで経っても馬車にいらっしゃらないので、一度報告までにと――」
「馬鹿者!」
今までに見たことのない怒鳴り声。
メイドはビクッと身体を強張らせる。
「報告するのは大事だ。だがそれよりもスカーレットの無事を確認するのが先だろう! 御者はどこだ? 今すぐにここへ連れてくるんだ!」
「は、はい!」
ほとんど悲鳴に近い返事をしたメイドは、すぐさま部屋から飛び出していった。
公爵はそれを見届けると、膝から崩れ落ちるようにしてソファに腰かける。
言葉にならないうめき声をあげ、頭を抱えた。
「……私が、私が誰も護衛につかせなかったばっかりに。完全に油断していた」
「あの子が寄り道なんてするはずがない。もしするなら事前に連絡が行くはずだ。……ああ、全部私のせいだ。フィルの他に新しい護衛を用意するのが遅れてしまった」
俺は、なんて公爵に声をかければ良いのだろうか。
公爵様は悪くない?
本来は俺がお嬢様を守る立場で、そう約束した。
それを違えたのは、ほかならぬ俺だ。
俺がスカーレットお嬢様を危険に晒したんだ。
この俺が――。
「フィル!」
後ろの方で、公爵の声が聞こえた。
「どこへ行く! お前が外に出る必要は――」
だが、俺はそれに返事をしなかった。
返事をする余裕などなかった。
気づくと、俺は屋敷から飛び出してどこかへ向かっていた。
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