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地獄 ~フィル視点~
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王妃の目的は、単なる嫌がらせだった。
自分を捨て置いて他の女と関係を持ち、挙句の果てに子どもまで産ませた。
しかもその子は男児で、自分の息子の将来を脅かす存在である。
そんな危険物を愚かにも生み出した自分の夫とその女が、王妃は許せなかった。
王妃は自分のことを棚に上げ、不貞を犯した国王を糾弾するために子どもを城まで連れて帰った。
夫の不始末の権化を夫の視界に常にチラつかせる駄目だった。
しかしその嫌がらせはうまく行くことなかった。
当然だろう。
女が子どもを産もうとしたとき、すぐさま国王は子どもを下ろさせようとした。
自分の保身のためにだ。
そんな人間が、どうして罪悪感を抱くだろうか。
気まずい思いをするだろうか。
王妃が連れて帰った子どもを一瞥して、国王は言った。
「その汚い子どもはなんだ?」
「あら、酷いこと」
と、王妃。
「自分の子どもの顔も忘れてしまったの?」
「何を言うか」
国王は笑った。
「私の息子はセシルだけだ。そんな庶民のどことも知れぬ馬の骨が、私の子どもであるはずがないだろう」
こうして少年は、王妃のストレスのはけ口になった。
悪知恵は働くが愚かな王妃は、少年をいたぶって国王の気を引こうとする。
しかし国王は少し目を向けるのみで、
「王妃は悪趣味だ」
と、苦笑する。
まるで本当に、その少年が赤の他人であるかのような、そんな冷たい目だった。
やがて王妃も少年に空き、彼女は城の古びた塔に少年を押し込めた。
子どもは外に出ることを許されず、辛うじて1日3食の食事が与えられるだけ。
そんな子どもはある日、1人の少年を見かける。
この城にいる子どもは、自分を覗けば1人だけ。
セシル殿下だった。
無邪気に笑い、可愛い婚約者を連れて楽しそうにしている殿下。
自分の腹違いの弟。
なぜだ。
なぜ俺はここにいて、あいつはあそこにいるんだ?
俺とお前は、ほとんど同じのはずなのに――。
自分を捨て置いて他の女と関係を持ち、挙句の果てに子どもまで産ませた。
しかもその子は男児で、自分の息子の将来を脅かす存在である。
そんな危険物を愚かにも生み出した自分の夫とその女が、王妃は許せなかった。
王妃は自分のことを棚に上げ、不貞を犯した国王を糾弾するために子どもを城まで連れて帰った。
夫の不始末の権化を夫の視界に常にチラつかせる駄目だった。
しかしその嫌がらせはうまく行くことなかった。
当然だろう。
女が子どもを産もうとしたとき、すぐさま国王は子どもを下ろさせようとした。
自分の保身のためにだ。
そんな人間が、どうして罪悪感を抱くだろうか。
気まずい思いをするだろうか。
王妃が連れて帰った子どもを一瞥して、国王は言った。
「その汚い子どもはなんだ?」
「あら、酷いこと」
と、王妃。
「自分の子どもの顔も忘れてしまったの?」
「何を言うか」
国王は笑った。
「私の息子はセシルだけだ。そんな庶民のどことも知れぬ馬の骨が、私の子どもであるはずがないだろう」
こうして少年は、王妃のストレスのはけ口になった。
悪知恵は働くが愚かな王妃は、少年をいたぶって国王の気を引こうとする。
しかし国王は少し目を向けるのみで、
「王妃は悪趣味だ」
と、苦笑する。
まるで本当に、その少年が赤の他人であるかのような、そんな冷たい目だった。
やがて王妃も少年に空き、彼女は城の古びた塔に少年を押し込めた。
子どもは外に出ることを許されず、辛うじて1日3食の食事が与えられるだけ。
そんな子どもはある日、1人の少年を見かける。
この城にいる子どもは、自分を覗けば1人だけ。
セシル殿下だった。
無邪気に笑い、可愛い婚約者を連れて楽しそうにしている殿下。
自分の腹違いの弟。
なぜだ。
なぜ俺はここにいて、あいつはあそこにいるんだ?
俺とお前は、ほとんど同じのはずなのに――。
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