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考え ~フィル視点~

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 お嬢様が立ち去り、俺は1人旦那様と奥様に相対する。


 少し背筋に緊張が走るのは、仕方がない。

 雇い主に対して、普段お嬢様に叩くような軽口を使うことなど当然出来ない。


 俺にとっての主人はスカーレット様ただ1人だが、それもこれもすべて旦那様と奥様のご慈悲によるものだということは忘れてはいない。


 お2人が使用人をぞんざいに扱う人でないことはよくわかっているが、それでも普段より意識しなければいけないことは山ほどある。


「……お考えと言うのは?」

 俺は恐る恐る尋ねた。

「俺が耳に入れてもよろしいのでしょうか?」


「問題ない」

 と、旦那様。

「フィル――お前の協力が必要なものなのでな」

「……なるほど、承知いたしました」


 俺の協力が必須で、お嬢様には耳に入れたくない考えということは。


「王家の暗殺、でしょうか?」

「「えっ」」


 お2人は目を丸くする。

「もちろん協力させてください。これ以上公爵家を馬鹿にするような方々を、野放しにしておいて良いはずがありませんし。俺はそういった裏仕事も躊躇なくこなせます。もちろん今までしたことはありませんが……。ですが」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 
 旦那様は俺の言葉を遮った。

「暗殺したいだなんて、恐ろしいことを言うんじゃない」

「なるほど。では隠語を」

「そういうことではない。落ち着きなさい」

「あなたの気持ちはわかるけれど。この人がおっしゃりたいのはそういうことじゃないのよ」

「失礼いたしました」


 なんだ。

 それは残念。


「コホン」


 旦那様は咳ばらいをする。

「単刀直入に言うと、新しい王を立てようと考えているのだ」

「新しい王?」

「現王家を構成しているのは、国王夫妻両陛下に王子が3名、王女が1名。私は王家もろとも全員排斥し、新たな王族を王位につかせる。腐敗した王家を一新したいのだ」

「それは……」


 それはつまり、クーデター。

 今まで公爵家が好んで来なかった政治という恐ろしい場所に介入しようとしているということ。


「我が家や他の公爵家にも協力を仰いでいる最中だ」

「……そうなのですか」

 
 計画は既に実行されている。

 旦那様は、そこに俺の協力が必要だとおっしゃっている。


 当然、俺は了承するつもりだ。


 公爵家に拾ってもらったあの日以降、俺は公爵家の使用人。

 恩返しが出来るなら、どんなことだってやってやろうと思っていた。


「旦那様、承知いたしました。俺に出来ることならなんでもやらせてください」

 俺は胸を張って言った。

「俺は1使用人に過ぎませんが、公爵家に忠誠を誓った1人の男でもあります。どんな仕事だってやり遂げてみせましょう」

「そうか」

 旦那様は満足そうに頷いた。

「頼もしいことだ」

「はい!」

「私がお前に頼みたいことと言うのは、フィルをお前にその新しい王になってほしいというものだ」

「はい! 承知いたし――えっ」


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