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連行
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第一王子が、公爵令嬢を襲おうとした。
当然そのような事態を放置するはずがない。
私はすぐさま近衛兵団に通報した。
その間、喚き暴れようとする殿下をついうっかり使用人が放してしまったせいで、客室がめちゃくちゃになってしまう。
さすがに私たちに暴力を振るえば危険なことになると怖気づいたのか、ひたすら高級な花瓶や絵画や家具を投げつけ、割り、叫ぶ。
私たちはそれに当たらないように常に殿下に目を光らせつつ、頭の中では必死に弁償額を計算していた。
レナは隅っこでぶるぶると震えている。
しばらくして、真っ青な顔で飛び込んでくる近衛兵団長。
「えっ、なっ……!」
部屋の惨状を見て、一瞬絶句する。
「何をなさっているのです!」
私は叫んだ。
「早く殿下を拘束してください! もう部屋がめちゃくちゃですわ」
「う、うぅ……」
私の隣では、ボロボロと涙を流す(ふりをする)ティファニー。
「まさか殿下にあんな酷い目に合わされるなんて……。もう嫌、死んでしまいたい」
「早く! ――大丈夫、ティファニー?」
「どこが大丈夫に見えるのよ!」
近衛兵団は、暴れ狂う殿下をなんとかして抑え込む。
いくら剣術に秀でているからといって、最近さぼりがちな殿下が鍛え抜いた大の男数人に勝てるはずもなく。
あっさりと拘束され、部屋から出て行った。
「本当に申し訳ございません。なんと言ったら良いか」
前代未聞の事態に、ひたすら泣きそうな顔で頭を下げる近衛兵団長。
「謝って済む問題に思えます?」
私は精一杯団長の顔を睨みつけた。
「も、申し訳――」
「あなたの謝罪は必要ありません。別にあなたが起こした問題ではないですし。それに、あなたの謝罪#ごとき_・__#で我々の腹の虫がおさまるとでも?」
「……」
「今すぐ連れて帰ってください。そして、この場の謝罪に最も相応しい方々を連れてきてください」
「し、しかし」
「これは我々公爵家に対する、王家の最大の侮辱です。だいたい、前にも同じ件で王家は我が家に約束をしたはず。それすら守れないとなれば、我々も考えなければなりません」
「す、すぐに連れて行きますので。ティファニー嬢には、詳しい話をお聞きしたいので」
「嫌!」
ティファニーは大きくかぶりを振る。
「最低ですよあなたたち。うら若き乙女が辱められたというのに、さらに追い打ちをかけようだなんて」
「す、すみません。失礼します!」
近衛兵は逃げるようにこの場を立ち去って行った。
彼らの姿が見えなくなった途端、震えていたティファニーの声が笑い声へと移り変わっていく。
「あなたね」
私は呆れ返っていた。
「自分の身の安全をもう少し考えましょうよ」
「いやあ、あそこまで身体張ると結構疲れるわね。さすがにびっくりしたわ」
「はぁ……。呆れたわ」
私はくるりとレナの方へ向く。
「怪我はない?」
「う、うぅう……」
「なさそうなら、使用人に送らせてあげるわ」
「あ、あんたたち、最低よ」
まだ言うかこの女は。
私は顔をしかめる。
「卑怯よ。騙すなんて」
「騙す? なんのことかしら?」
私は首を傾げる。
「あなたがフィルに頼んで我が家にやってきたのも、フィルがいない屋敷に殿下がやってきたのも、全部あなた方から起こした行動なのよ。私たちは一切何もしてないわ」
当然そのような事態を放置するはずがない。
私はすぐさま近衛兵団に通報した。
その間、喚き暴れようとする殿下をついうっかり使用人が放してしまったせいで、客室がめちゃくちゃになってしまう。
さすがに私たちに暴力を振るえば危険なことになると怖気づいたのか、ひたすら高級な花瓶や絵画や家具を投げつけ、割り、叫ぶ。
私たちはそれに当たらないように常に殿下に目を光らせつつ、頭の中では必死に弁償額を計算していた。
レナは隅っこでぶるぶると震えている。
しばらくして、真っ青な顔で飛び込んでくる近衛兵団長。
「えっ、なっ……!」
部屋の惨状を見て、一瞬絶句する。
「何をなさっているのです!」
私は叫んだ。
「早く殿下を拘束してください! もう部屋がめちゃくちゃですわ」
「う、うぅ……」
私の隣では、ボロボロと涙を流す(ふりをする)ティファニー。
「まさか殿下にあんな酷い目に合わされるなんて……。もう嫌、死んでしまいたい」
「早く! ――大丈夫、ティファニー?」
「どこが大丈夫に見えるのよ!」
近衛兵団は、暴れ狂う殿下をなんとかして抑え込む。
いくら剣術に秀でているからといって、最近さぼりがちな殿下が鍛え抜いた大の男数人に勝てるはずもなく。
あっさりと拘束され、部屋から出て行った。
「本当に申し訳ございません。なんと言ったら良いか」
前代未聞の事態に、ひたすら泣きそうな顔で頭を下げる近衛兵団長。
「謝って済む問題に思えます?」
私は精一杯団長の顔を睨みつけた。
「も、申し訳――」
「あなたの謝罪は必要ありません。別にあなたが起こした問題ではないですし。それに、あなたの謝罪#ごとき_・__#で我々の腹の虫がおさまるとでも?」
「……」
「今すぐ連れて帰ってください。そして、この場の謝罪に最も相応しい方々を連れてきてください」
「し、しかし」
「これは我々公爵家に対する、王家の最大の侮辱です。だいたい、前にも同じ件で王家は我が家に約束をしたはず。それすら守れないとなれば、我々も考えなければなりません」
「す、すぐに連れて行きますので。ティファニー嬢には、詳しい話をお聞きしたいので」
「嫌!」
ティファニーは大きくかぶりを振る。
「最低ですよあなたたち。うら若き乙女が辱められたというのに、さらに追い打ちをかけようだなんて」
「す、すみません。失礼します!」
近衛兵は逃げるようにこの場を立ち去って行った。
彼らの姿が見えなくなった途端、震えていたティファニーの声が笑い声へと移り変わっていく。
「あなたね」
私は呆れ返っていた。
「自分の身の安全をもう少し考えましょうよ」
「いやあ、あそこまで身体張ると結構疲れるわね。さすがにびっくりしたわ」
「はぁ……。呆れたわ」
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「あ、あんたたち、最低よ」
まだ言うかこの女は。
私は顔をしかめる。
「卑怯よ。騙すなんて」
「騙す? なんのことかしら?」
私は首を傾げる。
「あなたがフィルに頼んで我が家にやってきたのも、フィルがいない屋敷に殿下がやってきたのも、全部あなた方から起こした行動なのよ。私たちは一切何もしてないわ」
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