69 / 135
不快感
しおりを挟む
――と、誰しもが思ったことだろう。
旧校舎の近くには、殿下たちのクラスが出来たと同時に食堂とカフェテラス両方がオープンしている。
これは学園側の配慮だ。
王家をないがしろにすることもせず、かつ他の生徒と殿下たちを分けることが出来る。
私たちは殿下たちに怯えることなく学園生活を送ることが出来るし、向こうだって自分たちのためにわざわざ食堂とカフェテラスを作ってもらったのだから、悪い気はしていないはず。
だが、なぜか殿下たちは私たちの領域に踏み込んでいる。
しかも、その日1日だけではなかった。
それ以降、しばらく通い詰めることとなったのだ。
毎日毎日、食堂では不快な騒がしさが鼓膜を震わせる。
生徒たちは異常なまでの静けさで細々と食事を取り、黙って食堂から出て行く。
詳しい話は知らない。
なぜ彼らがここを選択したのか聞きたくもない。
食堂とカフェテラスが使えなくなっただの、ここの食堂の例の席で食べないと気が狂ってしまうだの、しょうもない話だけが耳に入ってくる。
正直、キツい。
あの人たちには散々迷惑をかけられていて、しかもレナの父親にまで酷いことを言われてしまった。
ようやく殿下から逃げることが出来て、学園側も対応してくれたというのに。
一体いつまで待てば、あの連中が視界から消えてくれるのだろうか。
彼らが食堂を使えないことにするわけには、もちろん行かない。
ティファニーの所属する生徒会の権限を持ってしても、生徒の権利を制限することは出来ないからだ。
だから仕方なく、私とティファニーはしばらく教室で食事を取ることにした。
使用人たちにも無理を言って、毎日ランチボックスを作ってもらうことにした。
被害者であるはずの自分たちが行動しなきゃいけないのは腹が立つが、向こうが自分たちの領域に戻ろうとしないのだ。
私はもう出来るだけあの人たちと関わりたくない。
ティファニーにも申し訳ないと謝罪すると、
「別に気にしなくても良いわよ。正直私もあの空間で食事したくないから」
と、にこやかに行ってくれた。
「それより、フィルは一緒に食べないのね」
「ええ」
私は頷く。
「彼も別にお友達を作っちゃってるし」
フィルが編入してからしばらくが経ち、彼は随分とこの学園になじんでいた。
当然の如く、私たちの他に仲良くしてもらっている子たちもいる。
そんなフィルは私たちが教室で食事を取るというと、自分も教室に残ると言い張っていたが、私が無理やり食堂に送り出した。
彼の友達はみんな食堂を利用している。
フィルには、せっかくの昼休みを友人たちと一緒に過ごしていてほしい。
彼にだって、彼の生活があるのだから。
「でもよくフィルが命令聞いたわよね」
「もちろん最初は渋ってたわよ。だけど、
『殿下たちの一挙一動を見張っていてほしいの。何するかわからないから怖くって』
って言ったら、喜んで行ってくれたわ」
「……あなた、だんだん使用人の扱い上手くなってきたわね」
「お嬢様」
突然教室の扉が開き、フィルが中に入ってくる。
食堂からここまで走ってきたのか、肩で呼吸している。
顔色も少々悪い。
「どうしたの?」
「悪い。失敗した」
「失敗? 何が?」
「とりあえず話は後でするから、俺を匿ってくれ!」
「えっ」
フィルはそう言うと、教卓の中に身体を隠した。
旧校舎の近くには、殿下たちのクラスが出来たと同時に食堂とカフェテラス両方がオープンしている。
これは学園側の配慮だ。
王家をないがしろにすることもせず、かつ他の生徒と殿下たちを分けることが出来る。
私たちは殿下たちに怯えることなく学園生活を送ることが出来るし、向こうだって自分たちのためにわざわざ食堂とカフェテラスを作ってもらったのだから、悪い気はしていないはず。
だが、なぜか殿下たちは私たちの領域に踏み込んでいる。
しかも、その日1日だけではなかった。
それ以降、しばらく通い詰めることとなったのだ。
毎日毎日、食堂では不快な騒がしさが鼓膜を震わせる。
生徒たちは異常なまでの静けさで細々と食事を取り、黙って食堂から出て行く。
詳しい話は知らない。
なぜ彼らがここを選択したのか聞きたくもない。
食堂とカフェテラスが使えなくなっただの、ここの食堂の例の席で食べないと気が狂ってしまうだの、しょうもない話だけが耳に入ってくる。
正直、キツい。
あの人たちには散々迷惑をかけられていて、しかもレナの父親にまで酷いことを言われてしまった。
ようやく殿下から逃げることが出来て、学園側も対応してくれたというのに。
一体いつまで待てば、あの連中が視界から消えてくれるのだろうか。
彼らが食堂を使えないことにするわけには、もちろん行かない。
ティファニーの所属する生徒会の権限を持ってしても、生徒の権利を制限することは出来ないからだ。
だから仕方なく、私とティファニーはしばらく教室で食事を取ることにした。
使用人たちにも無理を言って、毎日ランチボックスを作ってもらうことにした。
被害者であるはずの自分たちが行動しなきゃいけないのは腹が立つが、向こうが自分たちの領域に戻ろうとしないのだ。
私はもう出来るだけあの人たちと関わりたくない。
ティファニーにも申し訳ないと謝罪すると、
「別に気にしなくても良いわよ。正直私もあの空間で食事したくないから」
と、にこやかに行ってくれた。
「それより、フィルは一緒に食べないのね」
「ええ」
私は頷く。
「彼も別にお友達を作っちゃってるし」
フィルが編入してからしばらくが経ち、彼は随分とこの学園になじんでいた。
当然の如く、私たちの他に仲良くしてもらっている子たちもいる。
そんなフィルは私たちが教室で食事を取るというと、自分も教室に残ると言い張っていたが、私が無理やり食堂に送り出した。
彼の友達はみんな食堂を利用している。
フィルには、せっかくの昼休みを友人たちと一緒に過ごしていてほしい。
彼にだって、彼の生活があるのだから。
「でもよくフィルが命令聞いたわよね」
「もちろん最初は渋ってたわよ。だけど、
『殿下たちの一挙一動を見張っていてほしいの。何するかわからないから怖くって』
って言ったら、喜んで行ってくれたわ」
「……あなた、だんだん使用人の扱い上手くなってきたわね」
「お嬢様」
突然教室の扉が開き、フィルが中に入ってくる。
食堂からここまで走ってきたのか、肩で呼吸している。
顔色も少々悪い。
「どうしたの?」
「悪い。失敗した」
「失敗? 何が?」
「とりあえず話は後でするから、俺を匿ってくれ!」
「えっ」
フィルはそう言うと、教卓の中に身体を隠した。
20
お気に入りに追加
7,087
あなたにおすすめの小説
私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。
夢草 蝶
恋愛
子爵令嬢のエレインにはライという婚約者がいる。
しかし、ライからは疎んじられ、その取り巻きの少女たちからは嫌がらせを受ける日々。
心がすり減っていくエレインは、ある日思った。
──もう、いいのではないでしょうか。
とうとう限界を迎えたエレインは、とある決心をする。
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
【完結】あの子の代わり
野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、
婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。
ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。
18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、
キャリーヌにいないからという理由だったが、
今回は両親も断ることが出来なかった。
この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる