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不快感
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――と、誰しもが思ったことだろう。
旧校舎の近くには、殿下たちのクラスが出来たと同時に食堂とカフェテラス両方がオープンしている。
これは学園側の配慮だ。
王家をないがしろにすることもせず、かつ他の生徒と殿下たちを分けることが出来る。
私たちは殿下たちに怯えることなく学園生活を送ることが出来るし、向こうだって自分たちのためにわざわざ食堂とカフェテラスを作ってもらったのだから、悪い気はしていないはず。
だが、なぜか殿下たちは私たちの領域に踏み込んでいる。
しかも、その日1日だけではなかった。
それ以降、しばらく通い詰めることとなったのだ。
毎日毎日、食堂では不快な騒がしさが鼓膜を震わせる。
生徒たちは異常なまでの静けさで細々と食事を取り、黙って食堂から出て行く。
詳しい話は知らない。
なぜ彼らがここを選択したのか聞きたくもない。
食堂とカフェテラスが使えなくなっただの、ここの食堂の例の席で食べないと気が狂ってしまうだの、しょうもない話だけが耳に入ってくる。
正直、キツい。
あの人たちには散々迷惑をかけられていて、しかもレナの父親にまで酷いことを言われてしまった。
ようやく殿下から逃げることが出来て、学園側も対応してくれたというのに。
一体いつまで待てば、あの連中が視界から消えてくれるのだろうか。
彼らが食堂を使えないことにするわけには、もちろん行かない。
ティファニーの所属する生徒会の権限を持ってしても、生徒の権利を制限することは出来ないからだ。
だから仕方なく、私とティファニーはしばらく教室で食事を取ることにした。
使用人たちにも無理を言って、毎日ランチボックスを作ってもらうことにした。
被害者であるはずの自分たちが行動しなきゃいけないのは腹が立つが、向こうが自分たちの領域に戻ろうとしないのだ。
私はもう出来るだけあの人たちと関わりたくない。
ティファニーにも申し訳ないと謝罪すると、
「別に気にしなくても良いわよ。正直私もあの空間で食事したくないから」
と、にこやかに行ってくれた。
「それより、フィルは一緒に食べないのね」
「ええ」
私は頷く。
「彼も別にお友達を作っちゃってるし」
フィルが編入してからしばらくが経ち、彼は随分とこの学園になじんでいた。
当然の如く、私たちの他に仲良くしてもらっている子たちもいる。
そんなフィルは私たちが教室で食事を取るというと、自分も教室に残ると言い張っていたが、私が無理やり食堂に送り出した。
彼の友達はみんな食堂を利用している。
フィルには、せっかくの昼休みを友人たちと一緒に過ごしていてほしい。
彼にだって、彼の生活があるのだから。
「でもよくフィルが命令聞いたわよね」
「もちろん最初は渋ってたわよ。だけど、
『殿下たちの一挙一動を見張っていてほしいの。何するかわからないから怖くって』
って言ったら、喜んで行ってくれたわ」
「……あなた、だんだん使用人の扱い上手くなってきたわね」
「お嬢様」
突然教室の扉が開き、フィルが中に入ってくる。
食堂からここまで走ってきたのか、肩で呼吸している。
顔色も少々悪い。
「どうしたの?」
「悪い。失敗した」
「失敗? 何が?」
「とりあえず話は後でするから、俺を匿ってくれ!」
「えっ」
フィルはそう言うと、教卓の中に身体を隠した。
旧校舎の近くには、殿下たちのクラスが出来たと同時に食堂とカフェテラス両方がオープンしている。
これは学園側の配慮だ。
王家をないがしろにすることもせず、かつ他の生徒と殿下たちを分けることが出来る。
私たちは殿下たちに怯えることなく学園生活を送ることが出来るし、向こうだって自分たちのためにわざわざ食堂とカフェテラスを作ってもらったのだから、悪い気はしていないはず。
だが、なぜか殿下たちは私たちの領域に踏み込んでいる。
しかも、その日1日だけではなかった。
それ以降、しばらく通い詰めることとなったのだ。
毎日毎日、食堂では不快な騒がしさが鼓膜を震わせる。
生徒たちは異常なまでの静けさで細々と食事を取り、黙って食堂から出て行く。
詳しい話は知らない。
なぜ彼らがここを選択したのか聞きたくもない。
食堂とカフェテラスが使えなくなっただの、ここの食堂の例の席で食べないと気が狂ってしまうだの、しょうもない話だけが耳に入ってくる。
正直、キツい。
あの人たちには散々迷惑をかけられていて、しかもレナの父親にまで酷いことを言われてしまった。
ようやく殿下から逃げることが出来て、学園側も対応してくれたというのに。
一体いつまで待てば、あの連中が視界から消えてくれるのだろうか。
彼らが食堂を使えないことにするわけには、もちろん行かない。
ティファニーの所属する生徒会の権限を持ってしても、生徒の権利を制限することは出来ないからだ。
だから仕方なく、私とティファニーはしばらく教室で食事を取ることにした。
使用人たちにも無理を言って、毎日ランチボックスを作ってもらうことにした。
被害者であるはずの自分たちが行動しなきゃいけないのは腹が立つが、向こうが自分たちの領域に戻ろうとしないのだ。
私はもう出来るだけあの人たちと関わりたくない。
ティファニーにも申し訳ないと謝罪すると、
「別に気にしなくても良いわよ。正直私もあの空間で食事したくないから」
と、にこやかに行ってくれた。
「それより、フィルは一緒に食べないのね」
「ええ」
私は頷く。
「彼も別にお友達を作っちゃってるし」
フィルが編入してからしばらくが経ち、彼は随分とこの学園になじんでいた。
当然の如く、私たちの他に仲良くしてもらっている子たちもいる。
そんなフィルは私たちが教室で食事を取るというと、自分も教室に残ると言い張っていたが、私が無理やり食堂に送り出した。
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フィルには、せっかくの昼休みを友人たちと一緒に過ごしていてほしい。
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「でもよくフィルが命令聞いたわよね」
「もちろん最初は渋ってたわよ。だけど、
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って言ったら、喜んで行ってくれたわ」
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食堂からここまで走ってきたのか、肩で呼吸している。
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「どうしたの?」
「悪い。失敗した」
「失敗? 何が?」
「とりあえず話は後でするから、俺を匿ってくれ!」
「えっ」
フィルはそう言うと、教卓の中に身体を隠した。
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