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穏やか

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 周りの人たちに協力を仰いだおかげで、殿下とその友人たちからちょっかいをかけられることはなくなった。


 静かで穏やかな、いつもの日常が戻ってくる。


 違うのは、いつも私の傍にいてくれたセシル殿下がいないこと。

 確かにあの人には散々な目に合わされたが、それでもあの日々をすべて否定する気にはなれなかった。


 少し悲しい。

 いつも近くにいた人がいなくなってしまうのは。


 そのことをティファニーに告げると、

「あなたね……」

 と、呆れられた。


「まあ、気持ちがわからなくもないわ。だってあなたと殿下が、ずっと一緒にいたものね」


 婚約破棄の件で色々大臣たちが話し合った結果、きちんと婚約破棄の儀式を行うことになったらしい。


 国王が決めた、王家の者の婚約が破棄されたことは、前代未聞のことだ。

 だからこそ、ここまで時間がかかったのだろう。


 婚約破棄の儀式は、婚約式で交換した婚約の証である指輪を神の祭壇に返却するというもの。

 婚約式とは違ってお祝いするような状況ではないので、それだけすれば儀式は終了する。


 その一瞬だけでも殿下と顔を合わせるのは、怖かったが、今の殿下の様子は拍子抜けするほどだった。


 少し前までは、私に対して親の仇のような視線を送っていたが、今の殿下は心底私に興味がないような振る舞いを見せていた。


「この指輪を返却すれば、婚約破棄出来るってことか?」


 神官が、

「はい」

 と言うなり、セシル殿下は投げつけるように祭壇に指輪を置いた。


「「えっ」」

「じゃ、俺戻るわ」


 私たちの驚愕を他所に、セシル殿下はさっさとその場を去った。


 まあ、良い。

 最後に謝罪も何もなく、ただただ無礼な振る舞いをしているのは引っかかるが。


 とりあえず、婚約破棄は済んだ。


 これで私と殿下も、新しい未来へと進む準備が整ったわけだ。



 
 
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