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執着 ~セシル視点~

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 ヤバい。


 俺は焦った。


 このままじゃ、完全に見捨てられる。


 未来の国王という立場が確約していたはずなのに、一転して王家から放り出されるかもしれないなんて。


 どう考えても、スカーレットのせいだ。


 あの女のせいで、俺の地盤が崩れつつある。


 どうにかしなければ。

 俺側が動かなければならないのは癪だが、仕方がない。


 俺はスカーレットに接触することにした。


「たかが喧嘩ぐらいで、なぜそう言う話になるんだ?」

「これからは、こんな意地の張った行いをするんじゃないぞ」


 そう言った俺に対して、スカーレットは変な顔をしていた。


 わかったような、わかっていないような様子だ。


 さらに、俺は友人たちに、スカーレットを何度も呼ぶよう頼んだ。


 これはすべて、スカーレットとヨリを戻すためだ。


 あの女が第一王子婚約者で、かつ未来の王妃として適正があるかどうかと言われれば微妙だが。


 あの女がまた俺の元に戻ってくることが、俺の地位回復への一番手っ取り早い方法だ。


 ――だが。


 友人たちは、すごすごとスカーレットの教室から戻ってくる。


「スカーレットは? どうしたんだ?」

「話せなかった」

「なんで?」

「邪魔が入ったんだよ」


 友人は吐き捨てた。


「あいつら、マジなんなの? うぜー」

「マジでキモい。ブスがよ」


 詳しい話を聞くと、どうやら彼女に近づく前に、彼女のクラスメイトに追い返されたらしい。


 さらに。


 陛下たちにあれは誤解だと説明しても、


「嘘をつけ」

「公爵家から催促が来てるのよ。早く婚約破棄してくれって」


 などと、取り合ってもらえない。


 もしや。

 向こうは本気で、俺と別れたがっているのか?


 いや、そうじゃないはず。


 あいつは怒りのあまり、元に戻れなくなっているだけだ。

 俺がきちんと説得すれば、スカーレットだって俺の元に帰ってくるはず――。


「あのさあ」

「あ?」

「もう、やめねぇ?」

「は?」


 友人たちは、つまらなさそうな顔をしていた。


「スカーレットちゃんになんでそんなちょっかいかけようとするわけ?」

「それはあいつが俺を――」

「お前がこっぴどく振ったんだろ? なんでそんなに執着するんだ?」

「……」


「飽きたわ。正直」

「俺も。面白そうと思ってたけど、全然面白くねぇし。ダルい」

「お前もスカーレットちゃんに構わずに、他の女探したら?」

「スカーレットちゃんに執着するとか、キモいぜ」


 ……他の女?

 他の女だって?


 そんな奴、一体どこにいるんだ?


 
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