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手紙

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 セシル殿下から、

「城に来てくれ」

 という手紙が届いたのは、殿下が提示した予定日前日の夜だった。


「そんな急に」

 
 手紙を読んで、困惑する私。

「殿下にお会いするなら、色々と準備があるのに」


 城に行くなら、それなりのドレスを用意しなければならないし。

 お土産もきちんとしたものを準備しなければならない。


 前日に手紙が届くなんて困る。

 せめて朝だったら良かったのに。


「相変わらず強引だな」

 手紙を持ってきてくれた執事――フィルが冷たい声で言った。

「ご自分の婚約者様が、自分と会うために健気に努力しているとは思っていないのか」


 フィルはなぜか、セシル殿下をあまり快く思っていないらしい。

 昔から、殿下があのご友人たちとつるんでいなかったころからずっとそうだった。


「フィル、あなたなんてこと言うの?」

 私は彼を窘めた。

「彼は第一王子で、あなたの主人の婚約者なのよ」


「確かに、あんたは俺の主人だよ」

 フィルは言った。

「あの日――俺を拾ってくれた日から、俺はずっとあんただけに仕えてきた。だからこそ、俺の主人をないがしろにする奴は嫌いなんだ」

「セシル殿下は――」

「わかってる。第一王子だって言いたいんだろ」


 フィルは私の言葉を遮った。

「だが、俺が頭を下げるのはあんただけ。第一王子だろうがこの国の王だろうが、俺には関係ないね」


 私はため息をついた。


 彼は昔からずっとそういう態度で、私が何度言っても改めてくれない。


 彼は、そういうところがセシル殿下と似ていた。

 まあ、そう言うとフィルは怒るだろうけど。


「……とりあえず、準備をするわ」


 後は寝るだけという姿だったが、私はソファから腰を上げる。

「お土産、買ってこなくちゃ」

「いや、あんたは寝てろ。大好きな婚約者様と会うんだからな」

 フィルは苦々しく、吐き捨てるようにそう言った。

「俺がひとっ走りしてなんか買ってくる」

「でも」

「心配すんな。ちゃんとしたもんを用意してやるよ。この俺が、主人に恥をかかせるような真似、すると思うか?」


 自信たっぷりなフィルを見て、私はくすくすと笑った。

「ええ、そうね。あなたはいつも私のために頑張ってくれているわ――ありがとう。お願いするわ」

「おう」

 


 
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