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絡み

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 ティファニーの言う、

「本当にあの方と一緒に生きていけるのか考えた方が良い」

 という言葉は、私の中でずっと残っていた。


 今まで、そんな考えは一度もしたことがなかったから。


 私は第一王子の婚約者であり、未来の王妃になる存在。


 幼いころからずっとそう言われ続けているし、なんならそのつもりでもあった。


 その価値観を根本から覆す彼女の何気ない一言は、私の心の中に残っている。


「あっ」

 ぼんやりと考え事をしていたせいで、私は廊下で誰かにぶつかってしまう。

「すみません」


「おいおい」

「やっちゃったねぇ」


 ……嫌な声だ。

 常に人を馬鹿にするような声色。


 まただ。


 また、殿下の友達だ。


「痛いなあ、スカーレットちゃん」

「あーあ、これ腕折れちゃったんじゃねぇの?」

「ぎゃはははははっ」

「馬鹿じゃねぇの」


 私よりもずっと背の高い男子生徒が、私を囲んで大声で爆笑している。


 何度か殿下との繋がりの関係で、会話をしたことはあるものの。

 あまりの「ノリ」についていけず、凄く困ったことがある。


「す、すみません。ごめんなさい。ぼんやりしてて」

 
 私は頭を下げて謝罪する。

「謝って済むなら騎士団なんていないんじゃねぇの?」

「そうそう――で、どうする?」

「えっ? どうって……。お、お金ですか?」

「えっ。お金くれんの? やっさしー」

「ヒュー、お金持ち。さすが公爵令嬢。セシルの婚約者」

「辞めたれって(笑) スカーレットちゃん、カワイソー」

「ぎゃははは」

「ひっどぉ。カワイソーなのは俺じゃん。ねえ、スカーレットちゅわぁん?」

「お前マジキモ(笑)」


 次々と飛び交うキツい言葉に、私は委縮する。


「あ、あの。私今から教室に行かないといけなくて。授業の準備があるので」


 とりあえずそう言ってこの難から逃れようとするが、


「ぶつかっといて何それ? マジないわー」

「あっ、そうだ。じゃあなんか物まねやってよ。そしたら解放させてあげる」

「も、物まねって」

「陛下のまねしてよ」

「何それ(笑)。絶対面白いじゃん」


 面白いのはあなたたちだけだ。


 そんなことしたら、不敬どころじゃ済まない。


 私は助けを求めて、後ろの方にいた婚約者――セシル殿下に視線を向ける。


 だが、

「……」

 殿下も友人たちと同様、ニヤニヤ笑っているだけだった。


 王子はいつもそうだ。

 この人たちといるとき、王子は私と声を交わそうとすらしない。


「えっ、何? セシル、婚約者助けてやんないのー?」

「カワイソー(笑)」

「うるせぇよ(笑)」


 盛り上がる一同。


 その中心で私は、ただただこの苦痛が早く終わることを祈っていた。


 
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