殿下、記憶にございません

 公爵令嬢のエマには、かつて婚約者がいた。


 彼の名前は、トム。


 2人は幼い頃にパーティで出会い、互いに一目惚れをする。

 2人は将来を誓い合う仲となる。

 しかし、お互いの家は険悪関係にあった。

 そこで2人は互いの両親を説得し、晴れて婚約することになった。


 ーーしかし、その幸せは長く続くことはなかった。


 ある日エマは、トムに一方的に別れを告げられるのだ。

 何が原因かわからず、幼いエマは酷く落ち込んでしまった。


 しかしそんな日々も風化し、彼女は17歳となる。

 社交パーティデビューを果たした彼女の前に、あの時と同じように1人の男性が現れる。

「やあ、久しぶりだね」

「久しぶり? ーーあの、殿下。私たちは初対面だったはずだと」


 かつてのトムはトーマスと名前を変え、王子として生きていたのだ。


 ーーしかしそのことに、エマはまったく気づいていなかった。


 この話は、もう一度関係をやり直したいと願う王子と、まったく気づいていない令嬢の攻防戦である。
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