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第1章
村長の家①
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村長の家に該当する全員が集まったのは、思いのほか時間がかかった。
なんせ、みんな浮足立っていたからだ。
本当は、そのまま村長宅に直接向かうはずだったのに、1人が、
「すみません、お手洗いに」
と言ったのを皮切りに、女の子たちは自宅へ走って帰っていった。
彼女たちの目的はわかっている。
家にある母親の化粧品や服を盗み、これでもかというほど着飾ろうと考えているのだろう。
そんなの、付け焼刃でしかないのに。
女子生徒たちの猛獣ぶりに驚いて、私と村長はしばし立ち尽くしていた。
「……あの子たちは」
村長が悲しそうな顔をする。
「よほどこの村から出て行きたいようだな」
村長の悲痛な面持ちを見て、少し可哀想に思った。
「そう言う感じというか」
私は答える。
「多分みんな、貴族様の顔がみれるのが楽しみなんじゃないでしょうか」
彼女たちは、ベネット公に見世物的な興味を抱いているのだろう。
もちろん、貴族に見初められて村を出て行きたいという気持ちの方が大きいのだろうが。
そこは村長に気を遣い、言わないでおいた。
「そうか……」
こんな子供だましのフォローでも、村長は少し安心したようだった。
「エミリー、お前はベネット公に興味はないのか?」
「え? ああ、えっと……」
私は考え込む。
正直、この場から逃げ出したいくらいベネット公には会いたくない。
選ばれる可能性が大きいのは確かだが、自分が選ばれると確信しているほど自惚れてはいない。
ただ、会いたくないのだ。
ローレンは、本当に美しかったのだ。
それはもう悪魔のように。
今、彼から離れて冷静になっている私は、もう一度彼と顔を合わせるのが怖かった。
もし、またあの日のようなことが起こったらどうしよう。
あの日――私が彼に一目ぼれしてしまった、あの悪夢の始まりがまた訪れてしまったとしたら。
「エミリー?」
村長は心配そうに私の顔を伺う。
「大丈夫か?」
「ああ、ええ……。はい」
私は深呼吸した。
「すみません、私も少し家に戻ります」
「おおそうか、わかった。すぐに戻ってくるんだぞ」
「はい」
私は家に帰る道すがら、頭を整理する。
一旦落ち着こう。
要するに、ベネット公の視界に入らなければ良いのだ。
みんなと同じように化粧をして、ベネット公が現れるのを喜んでみせる。
普通の村の少女を演じれば良い。
そうすれば、きっとすべてが丸く収まるはずだ。
なんせ、みんな浮足立っていたからだ。
本当は、そのまま村長宅に直接向かうはずだったのに、1人が、
「すみません、お手洗いに」
と言ったのを皮切りに、女の子たちは自宅へ走って帰っていった。
彼女たちの目的はわかっている。
家にある母親の化粧品や服を盗み、これでもかというほど着飾ろうと考えているのだろう。
そんなの、付け焼刃でしかないのに。
女子生徒たちの猛獣ぶりに驚いて、私と村長はしばし立ち尽くしていた。
「……あの子たちは」
村長が悲しそうな顔をする。
「よほどこの村から出て行きたいようだな」
村長の悲痛な面持ちを見て、少し可哀想に思った。
「そう言う感じというか」
私は答える。
「多分みんな、貴族様の顔がみれるのが楽しみなんじゃないでしょうか」
彼女たちは、ベネット公に見世物的な興味を抱いているのだろう。
もちろん、貴族に見初められて村を出て行きたいという気持ちの方が大きいのだろうが。
そこは村長に気を遣い、言わないでおいた。
「そうか……」
こんな子供だましのフォローでも、村長は少し安心したようだった。
「エミリー、お前はベネット公に興味はないのか?」
「え? ああ、えっと……」
私は考え込む。
正直、この場から逃げ出したいくらいベネット公には会いたくない。
選ばれる可能性が大きいのは確かだが、自分が選ばれると確信しているほど自惚れてはいない。
ただ、会いたくないのだ。
ローレンは、本当に美しかったのだ。
それはもう悪魔のように。
今、彼から離れて冷静になっている私は、もう一度彼と顔を合わせるのが怖かった。
もし、またあの日のようなことが起こったらどうしよう。
あの日――私が彼に一目ぼれしてしまった、あの悪夢の始まりがまた訪れてしまったとしたら。
「エミリー?」
村長は心配そうに私の顔を伺う。
「大丈夫か?」
「ああ、ええ……。はい」
私は深呼吸した。
「すみません、私も少し家に戻ります」
「おおそうか、わかった。すぐに戻ってくるんだぞ」
「はい」
私は家に帰る道すがら、頭を整理する。
一旦落ち着こう。
要するに、ベネット公の視界に入らなければ良いのだ。
みんなと同じように化粧をして、ベネット公が現れるのを喜んでみせる。
普通の村の少女を演じれば良い。
そうすれば、きっとすべてが丸く収まるはずだ。
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