前世でこっぴどく振られた相手に、今世ではなぜか求婚されています ~番とか、急にそんなこと言われても困るんですが~

小倉みち

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第1章

再び

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 しばらくは、穏やかな日々だった。


 友人の1人が出て行ったせいで少し空気は荒れたが、それでもみんないつものようなのんびりとした様子だった。


 それは掲示板の件が、この村にとって対岸の火事だからだろう。


 この小さな村にとって、王侯貴族や王都は、夢のまた夢。

 おとぎ話でしかない。


 ベネット公の花嫁探しの件は、確かに村の女性たちの間で話題となったけれど。

 それはあくまで平凡な日常に訪れたスパイスでしかなかった。


 何人かの少女が村を出て王都に行くと意気込んでいたけれど、あれは若者特有の焦燥感に駆られたものだというのが、大人たちの総意見だった。


 結局みんな飽きていったのか、次第にその件も話題に上らなくなっていく。


 ベネット公に対してあんなに激しい恋情を抱いていた私でさえ、あれは過去のことだったとすっかり忘れ、16歳のエミリーとしてせっせと家業と勉学に勤めていた。


 ベネット公の件は、そうして村の歴史にも残らずに消え去っていく。


 ――そのはずだった。


 しかし数カ月後、また掲示板に花嫁探しの情報が貼られていた。

 数ヵ月放置されてボロボロになった紙を張り替えて、保護魔法をかけるという徹底ぶり。


「まだ探してるみたいね」

「貴族様も大変だなあ」


 先日と同じように掲示板に集まった村人たちは、そう言って各々の仕事に戻っていった。


 数週間後。


 今度は、

「15歳から20歳の間の女性」という具体的な条件つきで。


 それがどんどん、

「16歳」

「西部地方在住」

 と、具体的かつ限定的になっていく。


 嫌な予感がした。

 その掲示板の内容が少しずつ、私に近づいて行っているような気がしたから。


 いや、でも。

 ない。


 それはさすがにないはず。


 だって私は、前世の私はあの人にこっぴどく振られたわけで。

 それにもう、全部終わったことだし。


 ――だが。


 最終的に、

「前世の記憶を持つ女性」

 という決定的な言葉を目にしたとき。


 さすがの私も、現状を否応なしに認識せざるを得なかった。
 
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