前世でこっぴどく振られた相手に、今世ではなぜか求婚されています ~番とか、急にそんなこと言われても困るんですが~

小倉みち

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プロローグ

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 私の名前は、エミリー。


 小さな村に住む、普通の村娘。


 優しい両親の元に生まれ、兄弟や友達たちとのびのび過ごし、育った。

 のエミリー。


 だけど、1つだけ「普通」ではない秘密を持っている。


 私には、前世があった。


 今を知っているみんなが聞けば、

「絶対嘘」

 だと笑うでしょうけど、本当だ。


 本当に、私には前世の記憶がある。


 前世――恐らく200年前の話。

 私はこの国の公爵令嬢だった。


 何不自由なく育ち、幸せな人生を送るはずの、恵まれた人間だった。


 だけど5歳のある日、彼に会ってから、私の人生は大いに狂った。


 彼の名前は、ローレン。

 当時の私と同じく、公爵家の御子息だった。


 しかし彼が普通の貴族と違っていたのは、その血筋。


 現王族よりも古い家柄で、原始の龍の血が入っているとされる家系。


 彼の先祖は神話の時代に生まれた、それはそれは美しい姫君であったそうだ。

 彼女を見初めた原始の龍は、彼女を自身の番とした。


 その子孫が、彼の家だという。


 その伝説は本当だったのか、彼に龍の血が本当に混じっているのか。


 当時5歳であった私には、そんな難しいことはよくわかっていなかった。


 だけど、私は目を奪われてしまった。


 彼の美しさに。

 彼の魅力に。


 私は、ローレンに恋をしてしまったのだ。


 それが、前世での私の運の尽きだった。


 恋に盲目になってしまった私は、両親や親族の力をすべて用い、彼を手に入れようとした。


 それはもう、異常だった。


 常に彼の傍を離れようとしないのはもちろん、障壁となるような人間を排除したり、彼に近づく女を虐めたり、恐ろしいことまでやってのけた。


 それらはすべて、彼を手に入れるためにやったことだ。


 だけど、ついぞそれは叶わなかった。


 彼は、私を嫌った。

 常に周りをウロチョロする私の存在を、嫌がっていた。


 何度も何度も、彼は私を拒否した。


「君と付き合うつもりはない」

「もう二度と、近づかないでくれ」

「鬱陶しい」


 そんなことを言われても、私は盲目だった。


 彼が好きだった。

 彼だけを、愛していた。


 そんな恋情を、利用しようとする連中がいた。


 それが誰なのか、私にはわからなかった。


 私は彼しか見ていなかったから。

 当時の私は愚かだったのだ。


 知らない男に、

「さっき、ローレン公爵子息が誘拐されていた」

 と、そんなことを言われたのを覚えている。


 頭が真っ白になった私は、その男の言われるがままついていき、そして――。


 恐らく、我が公爵家の力を疎む人間の仕業だったのかもしれない。

 もしくは、私と同じくローレンを手に入れたいと考えていた者の計画か。


 どちらにせよ、私は死んだ。

 誘拐犯によって、殺された。


 しかし幸運だったのは、その死に際、我に返ったことだ。


 何度も願った。

 助けてほしいと。


 ローレンに、助けに来てほしいと。


 だけど、彼は来なかった。

 彼はおろか、誰も私を助けに来てくれなかった。


 私は1人ぼっちで死んだ。


 あまり記憶に残ってはいないが、もしかすると誰かに言われたのかもしれない。


「よくそこまで不毛な恋が出来るな」

「あの男は来ない。君は彼に嫌われているだろう?」


 そんな言葉を、誰かから投げかけられたのかもしれない。


 私は死ぬ瞬間、我に返ったのだ。


 どうして、そこまであの人のことが好きだったんだろうか。


 命を賭してまで、すべてをかけてまで彼を愛そうとしていた私。

 最期の最期になって、私はその感情がわからなくなった。


 私はその死の瞬間、恋心という呪縛から解放されたのだ。


 その前世の記憶がある今、私は過去を深く反省した。

 自分の盲目さ、行った罪。


 一体どうして自分が生まれ変わったのかはわからないけど。


 神様がもし私を哀れんで、もう一度人生をやり直させてくれたのだったら。


 私はもう二度と、あのような悲劇を起こしはしない。


 他人に執着せず、堅実に生き、堅実に死ぬ。


 今度こそは、幸せな人生を送ってやるわ。
 

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