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第1章

バイト

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 背に汗が垂れる。


 その辺の激安店で買った灰色のシャツが、濃い色に染まっていた。


 グレー系は汗染みが目立つなんて一片たりとも考えず、適当に買ったのが仇になった。


 特に脇がヤバい。

 本当にヤバい。


 こっちからは当然見えないけど、絶対に背中もびしょびしょになっているはずだ。


 頭からはシャワー浴びたんじゃないかというくらいに汗がボトボトと滴っている。

 バイトを始めたころ、その汗が目に入って大惨事になったから、頭にはちゃんとタオルを向いている。

 が、そのタオルも雑巾みたいに絞れば、きっと辺りは水浸しだ。


 汗の悩みは健全な男子高校生にとってはかなり深刻な問題だが、とりあえずここが労働系のバイトであること、年上の男だらけであること、それに夜中であることが、俺の首の皮が辛うじて繋がっている要因だ。


「圭!」

 野太い男の声が、少し前から聞こえる。


「これ、運んでくれ!」


 俺はTシャツの裾で顔の汗を拭い、

「はい!」

 と、返事をした。


 呼ばれた方に走っていくと、そこには俺よりも背の高い男性が立っている。


 彼は俺の先輩で、このバイトの中でも俺に次いで2番目に若い。

 多分、20代前半だと思う。

 金色の長髪で、それを1つに束ねている。


 見た目は俺と張り合うくらい厳ついが、性格はとても良い。

 気の良い兄ちゃんって感じだ。


 彼のフルネームは知らない。

 だが、みんなは彼を「ケン」と呼んでいる。


 ケンさんの足元には、無造作に積み上げられた土嚢がいくつもあった。


「ケンさん、どこまでですか?」

「とりあえず、向こうのトラックまで運んでくれ」

「どのトラックですか?」

「緑のやつな」

「わかりました!」


 俺は素早くそれを2つ両脇に抱え、トラックのある駐車場へ向かう。


 腕が痛い。

 筋肉がビリビリする。


 それが苦痛だったのは、もう何ヵ月も前のことだ。


 今じゃそれなりに筋肉もついて、ちょっとやそっとじゃ筋肉痛にならない。


 歩くとサボっているように見えるから、少し小走りに土袋を運ぶ。


 俺のアルバイトは、土木工事だ。

 深夜、他の男連中と一緒に車に乗って、俺はどこか知らない土地へ行く。


 そこで夜働くのだ。


 土木は、結構稼げる。


 それなりにきついので、あまりお勧めはしないが。


「こぉら! 圭! 遅いぞ!」

「はい!」


 ぼんやり考え事をしていたせいか、他の先輩にどやされてしまった。


 俺は返事をして、さらに足を速める。

 
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