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帰り

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 私が局員と話している間、何が起こったのかはわからないが、私が事務室に戻ったころにはもう話の決着がついていた。


「ランスは、私たちに着いてきてくれることになったぞ」


 嬉しそうなお父様と、少し疲れた様子のお母様、そしてーー。


 気まずそうに目を逸らすランスの表情が、とても印象的だった。


 私たちは行政局の局員たちにお礼を言い、また長い旅を始める。


「ランスは、何か持ち物はあるかい?」

 と、お父様は気軽に彼に声をかけた。

「いいえ、ありません」

 対してランスは、まったく感情の読めない声色で答える。


「家もないので。物を持ってても意味がないんです」

「そうか……。形見は持ってないのか?」

「ええ。殺されたときに、群衆がすべてを奪っていきました」


 彼はそう簡単に言うが、その言葉から、彼の日々が波乱万丈であったことが伺えた。


 私たちは馬車に乗り、また元来た道を戻る。


 だが、ここへやって来る道中とは違い、馬車の中の空気は悪かった。


 時々お父様やお母様が話題を振ってくださるが、ランスは会話を広げる気がないのだろうか、

「ああ」

 とか、

「はい、そうです」

 とか、

「いいえ、違います」


 という言葉のみを繰り返すだけで、ちっとも話を膨らませることが出来なかった。


 私も、両親やランスの前で泣いたことか恥ずかしく、帰りの馬車の中では、いつものように純粋に楽しく話をすることが出来なかった。


 なんとも気まずくて長い旅が終わり、私たちは屋敷へ戻る。


 イザベラたち使用人は、ランスを見た途端に驚き、すぐさま彼を風呂に入れた。

 イザベラに至っては、

「屋敷が汚れる」

 と憤慨していた。


 私は彼女と会話する気になれず、

「少し休ませて。疲れたの」

 と言って、自室に戻る。


 寝巻きに着替え、ベッドに潜り込む。


 長い間馬車で移動していたせいか、身体があちこち痛かった。

 それに、明日からは学校に行かねばならない。


 また、リアムとジニーの顔を見なければならないのだ。

 またあの2人が仲良さそうに身体を寄せ合っているのを見て注意し、そして鬱陶しがられる日々が始まるのだ。


 私は憂鬱な気分になる。


 疲れているのに、そのせいで眠ることも出来ない。


 私の心の中には、将来の不安がずんと押し寄せていた。


 そうやってベッドの上でぼんやりしていると、ノックの音が聞こえてきた。


「お嬢様、ご夕食です」

 イザベラの声だった。

「ご準備が整いました。お加減がよろしければ、ぜひお召し上がりくださいませ。今宵はお嬢様の大好物を揃えております」

「……いらないわ」

 私は答える。


「お腹がすいていないの。1人にさせて」

「承知いたしましたーーランス様がご夕食の後、シャーロット様にお話があるとおっしゃっておられます。私の方からお断りすることも可能ですが」

「ランスが?」


 私はベッドから起き上がった。
 
「ランスが? 私に一体なんの用事かしら?」

「さあ」

 扉の向こうのイザベラが答える。


「気が変わったわ。夕食を取ります。ごめんねイザベラ、少し着替えるから時間をちょうだい」

「承知いたしました」
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