2 / 28
領収書
しおりを挟む
私がハワードを疑い始めたのは、ある使用人の一言だった。
その使用人は、貧乏な私たちの生活を支えてくれる、大事な筆頭執事だった。
「奥様」
ハワードが仕事に出かけていき、1人暇していた私に、執事は神妙な面持ちで言った。
「あら、どうしたの?」
「お話があるのです。お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
普段は真面目で優秀な彼。
既婚者である私とは、当然主人に対する配慮もあり、世間話をする関係でもなく、彼がそんなことを言い出したのが不思議で仕方がなかった。
よほどのことがあったに違いない。
もしや、私の実家で何が起こったのかと不安に駆られながら、私は彼の話を聞く。
「これをご覧くださいませ」
彼は1枚の領収書を手渡してきた。
「これは?」
それは、とあるレストランの飲食費が記載されたものだった。
そこは最近王都でオープンしたばかりの、社交界では話題の店だった。
「実は」
執事は少し言いにくそうに、しかしはっきりと告げた。
「これが、ご主人様のコートのポケットから出てきたのです」
「あら、そう……」
私は領収書を見つめ、首を傾げる。
「それがどうかしたの?」
「こちらをご覧くださいーー2人分の食事内容が記載されております」
執事の言う通り、そこには2人分の食事が。
ハワードは大食漢ではないから、彼が誰かと食事に行ったことは確実だった。
「しかもこの内容、パフェまで頼んであります」
「パフェ……」
甘くて美味しいデザート。
この頃には、甘いものは男性よりも女性が食べている方が一般的たと見なされていた。
「一応お伝えしておこうかと」
執事はそう言って、私に頭を下げた。
私は平静を保ったまま礼を言う。
「ありがとう。報告してくれて」
しかし、私はこの時点で彼を疑うことはなかった。
きっと、忙しい日に屋敷に戻るより先に、そこで夕食を取ったのだろう。
そんな具合だと。
そう思っていたのだ。
その使用人は、貧乏な私たちの生活を支えてくれる、大事な筆頭執事だった。
「奥様」
ハワードが仕事に出かけていき、1人暇していた私に、執事は神妙な面持ちで言った。
「あら、どうしたの?」
「お話があるのです。お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
普段は真面目で優秀な彼。
既婚者である私とは、当然主人に対する配慮もあり、世間話をする関係でもなく、彼がそんなことを言い出したのが不思議で仕方がなかった。
よほどのことがあったに違いない。
もしや、私の実家で何が起こったのかと不安に駆られながら、私は彼の話を聞く。
「これをご覧くださいませ」
彼は1枚の領収書を手渡してきた。
「これは?」
それは、とあるレストランの飲食費が記載されたものだった。
そこは最近王都でオープンしたばかりの、社交界では話題の店だった。
「実は」
執事は少し言いにくそうに、しかしはっきりと告げた。
「これが、ご主人様のコートのポケットから出てきたのです」
「あら、そう……」
私は領収書を見つめ、首を傾げる。
「それがどうかしたの?」
「こちらをご覧くださいーー2人分の食事内容が記載されております」
執事の言う通り、そこには2人分の食事が。
ハワードは大食漢ではないから、彼が誰かと食事に行ったことは確実だった。
「しかもこの内容、パフェまで頼んであります」
「パフェ……」
甘くて美味しいデザート。
この頃には、甘いものは男性よりも女性が食べている方が一般的たと見なされていた。
「一応お伝えしておこうかと」
執事はそう言って、私に頭を下げた。
私は平静を保ったまま礼を言う。
「ありがとう。報告してくれて」
しかし、私はこの時点で彼を疑うことはなかった。
きっと、忙しい日に屋敷に戻るより先に、そこで夕食を取ったのだろう。
そんな具合だと。
そう思っていたのだ。
0
お気に入りに追加
846
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる