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領収書

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 私がハワードを疑い始めたのは、ある使用人の一言だった。


 その使用人は、貧乏な私たちの生活を支えてくれる、大事な筆頭執事だった。

「奥様」


 ハワードが仕事に出かけていき、1人暇していた私に、執事は神妙な面持ちで言った。

「あら、どうしたの?」

「お話があるのです。お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


 普段は真面目で優秀な彼。

 既婚者である私とは、当然主人に対する配慮もあり、世間話をする関係でもなく、彼がそんなことを言い出したのが不思議で仕方がなかった。

 よほどのことがあったに違いない。

 もしや、私の実家で何が起こったのかと不安に駆られながら、私は彼の話を聞く。

「これをご覧くださいませ」


 彼は1枚の領収書を手渡してきた。

「これは?」


 それは、とあるレストランの飲食費が記載されたものだった。

 そこは最近王都でオープンしたばかりの、社交界では話題の店だった。

「実は」


 執事は少し言いにくそうに、しかしはっきりと告げた。

「これが、ご主人様のコートのポケットから出てきたのです」

「あら、そう……」


 私は領収書を見つめ、首を傾げる。

「それがどうかしたの?」

「こちらをご覧くださいーー2人分の食事内容が記載されております」


 執事の言う通り、そこには2人分の食事が。

 ハワードは大食漢ではないから、彼が誰かと食事に行ったことは確実だった。


「しかもこの内容、パフェまで頼んであります」

「パフェ……」


 甘くて美味しいデザート。


 この頃には、甘いものは男性よりも女性が食べている方が一般的たと見なされていた。

「一応お伝えしておこうかと」


 執事はそう言って、私に頭を下げた。

 私は平静を保ったまま礼を言う。

「ありがとう。報告してくれて」


 しかし、私はこの時点で彼を疑うことはなかった。

 きっと、忙しい日に屋敷に戻るより先に、そこで夕食を取ったのだろう。

 そんな具合だと。


 そう思っていたのだ。
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