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失敗 ~神官視点~

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 しかし、それももうおしまいだ。


 1週間前、フレイヤ嬢が家出をした、と風の噂で聞いたのだ。

 そのことが私の耳に入ってきたのは、家出から数日経った後のことであった。


 普通、公爵令嬢という高貴な立場の人間がいなくなれば、一瞬で話は広がるはずだというのに。

 フレイヤ嬢の失踪は、なぜかしばらく伏せられていた。


 話が漏れたのは、彼女の家の使用人たちからだと聞いている。


 だが問題は、なぜフレイヤ嬢の家出が意図的に伏せられていたのか、という部分ではない。

 なぜフレイヤ嬢が、いなくなってしまったのかということだ。


 正直、貴族でもなんでもない私には、フレイヤ嬢の居所など毛ほども興味がない。

 ただ、彼女がいなくなることによって、聖女イルゼの精神が不安定になるだろうという鬱陶しい未来が見えただけだ。


 ――しかし。

 問題は、それ以上に深刻だった。


 フレイヤ嬢の失踪について、教会の元老院が聖女イルゼに尋問するとのお達しがあった。

 その至急の手紙を受け取ったとき、私は嫌な予感がした。


 彼女の失踪について、聖女イルゼが関わっている。

 元老院が、そう考えているということだ。


 焦った私はすぐに聖女イルゼを呼び出し、詳しい話を聞こうとした。


 久しぶりの会話である。

 彼女はなぜか最初から泣いていて、話にならなかった。


「なぜあなたは呼び出されているのです?」

「……」

「フレイヤ嬢がなぜ家出をしたのか、あなたはご存じなのですか?」

「……」

「なぜ何も答えないのです?」

「……」


 何度も何度も私は尋ねたが、彼女は泣くばかりで何も言わない。

 必然的に、私の声はだんだん荒げていった。


「いい加減にしてください!」

 私は叫んだ。

「あんたのせいで、我々に多大な迷惑がかかるかもしれないんですよ!」


 聖女は私の言葉を聞くと、キッと鬼のような形相を向けてきた。


「あ、あなたは、あなたは私が悪いっていうの!? 私は悪くない! 悪いのはフレイヤよ! フレイヤが自分の婚約者を、魅力がなくて惹きつけられなかったせいよ! それで勝手にキレていなくなったんだから、悪いのは私じゃない!」

 
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