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第2章
血
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パーシーを放っておいて、私たちは森の中の泉から立ち去った。
ゼロは、彼の浅はかさによって迷惑を被られたことがよほど腹立つのか、歩きながら時々舌打ちをしたり、吐き捨てるように文句を言ったりしていた。
「なんなんだよ、あいつ」
「ふざけんな」
まるで、先ほどの私と同じである。
「落ち着いてよ、ゼロ」
「俺はな、ああいう何も考えてない奴が一番嫌いなんだよ」
「そこまで言う必要なくない?」
だけどまあ、彼の言いたいことはよくわかる。
現代的に言えば、私たちはフリーランスである。
一応ギルド協会に所属してはいるものの、正式に雇われているわけではない。
自分で仕事を取って、依頼者の指示通りに、任務を行わなければならない。
つまり、信用と実績が第一なのだ。
私たちはどうしても周囲の評価を気にしなければならず、ただ可哀想だからとかそういう理由で仕事を行うことが出来ない。
そんなことをしてしまった暁には、依頼者並びにその周辺の人々からの信頼が失墜する。
下手すれば、ブラックリストに入るかもしれない。
仕事がもらえなくなれば、私たちは野垂れ死にことになるだろう。
パーシーは可哀想だが、仕方がない。
私はゼロの指示に従い、特に文句を言うこともなく、また中央都市へ赴いた。
途中注射器を使って、血をゼロに飲ませる。
最初指先から血を分けるという方向で行こうと思ったけど、ゼロが直接口で私の指を噛み切って飲むんじゃないかという杞憂が突然脳裏にちらつき、怖くなって注射器の方でお願いします、と懇願した。
――とは言え。
マジで怖い。
私、元々注射とか病院とかそういう類のものがあまり好きじゃない。
だって痛いし、
それなのに、自力で採血とか無理に決まっている。
涙目になりながら腕に注射器を刺そうとして数分間経過し、その間ずっと食事が出来なかったゼロはとうとう痺れを切らして、
「貸せ。俺がやる」
と、私から注射器を奪った。
袖をめくられ、肩に注射針を入れる。
痛っ。
ジーンという痛みがその部分から全身に広がる。
私は顔をしかめ、片方の手でゼロの服の裾を握った。
注射器は、私の真っ赤な血を少しずつ吸い上げていく。
満タンになると、ゼロは素早く針を抜き取った。
傷口からぷっくりと赤い液体が溢れる。
ゼロはそこに、真っ白なガーゼを押し当てた。
「しばらくはそのままにしてろ」
「わかった」
「それと、注射は覚えてくれ。血を見ると狂う吸血鬼もいる」
「狂うとどうなるの?」
「あんたが死ぬ」
なるほど。
そうしたが最後、私の身体の血が全部抜き取られる可能性があるわけだ。
「わかった」
が、覚えられるだろうか。
なんやかんや、全部ゼロに任せてしまいそうな気がするけど。
「いただきます」
育ちが良いのか、ゼロはそう言って、注射器のふたを開けて私の血を飲み干す。
「ど、どう? お味の方は」
私は気になって尋ねた。
「美味い」
「そうなんだ」
私からすれば、血なんてただの鉄の味なんだけど。
「おい!」
突然、男の声が聞こえる。
私たちは、ぱっと振り返った。
先ほど私たちが置いていったはずのパーシーが、はあはあと息を切らしながら、私たちに向かって叫んでいた。
「お前、ヴァンパイアだったのか!」
あっ、ヤバい。
面倒くさいのが来た。
ゼロは、彼の浅はかさによって迷惑を被られたことがよほど腹立つのか、歩きながら時々舌打ちをしたり、吐き捨てるように文句を言ったりしていた。
「なんなんだよ、あいつ」
「ふざけんな」
まるで、先ほどの私と同じである。
「落ち着いてよ、ゼロ」
「俺はな、ああいう何も考えてない奴が一番嫌いなんだよ」
「そこまで言う必要なくない?」
だけどまあ、彼の言いたいことはよくわかる。
現代的に言えば、私たちはフリーランスである。
一応ギルド協会に所属してはいるものの、正式に雇われているわけではない。
自分で仕事を取って、依頼者の指示通りに、任務を行わなければならない。
つまり、信用と実績が第一なのだ。
私たちはどうしても周囲の評価を気にしなければならず、ただ可哀想だからとかそういう理由で仕事を行うことが出来ない。
そんなことをしてしまった暁には、依頼者並びにその周辺の人々からの信頼が失墜する。
下手すれば、ブラックリストに入るかもしれない。
仕事がもらえなくなれば、私たちは野垂れ死にことになるだろう。
パーシーは可哀想だが、仕方がない。
私はゼロの指示に従い、特に文句を言うこともなく、また中央都市へ赴いた。
途中注射器を使って、血をゼロに飲ませる。
最初指先から血を分けるという方向で行こうと思ったけど、ゼロが直接口で私の指を噛み切って飲むんじゃないかという杞憂が突然脳裏にちらつき、怖くなって注射器の方でお願いします、と懇願した。
――とは言え。
マジで怖い。
私、元々注射とか病院とかそういう類のものがあまり好きじゃない。
だって痛いし、
それなのに、自力で採血とか無理に決まっている。
涙目になりながら腕に注射器を刺そうとして数分間経過し、その間ずっと食事が出来なかったゼロはとうとう痺れを切らして、
「貸せ。俺がやる」
と、私から注射器を奪った。
袖をめくられ、肩に注射針を入れる。
痛っ。
ジーンという痛みがその部分から全身に広がる。
私は顔をしかめ、片方の手でゼロの服の裾を握った。
注射器は、私の真っ赤な血を少しずつ吸い上げていく。
満タンになると、ゼロは素早く針を抜き取った。
傷口からぷっくりと赤い液体が溢れる。
ゼロはそこに、真っ白なガーゼを押し当てた。
「しばらくはそのままにしてろ」
「わかった」
「それと、注射は覚えてくれ。血を見ると狂う吸血鬼もいる」
「狂うとどうなるの?」
「あんたが死ぬ」
なるほど。
そうしたが最後、私の身体の血が全部抜き取られる可能性があるわけだ。
「わかった」
が、覚えられるだろうか。
なんやかんや、全部ゼロに任せてしまいそうな気がするけど。
「いただきます」
育ちが良いのか、ゼロはそう言って、注射器のふたを開けて私の血を飲み干す。
「ど、どう? お味の方は」
私は気になって尋ねた。
「美味い」
「そうなんだ」
私からすれば、血なんてただの鉄の味なんだけど。
「おい!」
突然、男の声が聞こえる。
私たちは、ぱっと振り返った。
先ほど私たちが置いていったはずのパーシーが、はあはあと息を切らしながら、私たちに向かって叫んでいた。
「お前、ヴァンパイアだったのか!」
あっ、ヤバい。
面倒くさいのが来た。
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