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第1章
青年
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「あっ、おはよー……」
私は寝惚け眼を擦る。
「馬鹿。今は深夜だ」
「冗談に決まってんじゃん」
私は立ち上がり、ふらつく身体を安定させる。
「あなたに言われた通り、ちゃんとギルド登録してきたわよ」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
「うん……って、どこへ?」
「あんたがそれを決めるんだろうが。依頼は受けたのか?」
「あっ、忘れてた」
「はあ……」
男はため息をついた。
「とりあえず、移動するぞ。こんなところで寝てたら、お前襲われるぞ」
「そうね」
私は頷き、歩き出したところで、はたと気づいた。
「ちょっと待って」
「なんだ?」
先を行こうとしていた男が立ち止まって、振り返る。
「あなた、全治1ヶ月よね?」
私は目を凝らして、彼の姿を見つめる。
今の男の姿はどう見ても、昼にぼこぼこにされた人間のようには思えないくらい、ぴんぴんしている。
「ここも、ほらここも。怪我してるのも、全部治ってる」
この世界って、そんな簡単に怪我を治すことが出来るのだろうか。
いやでも、あのお医者さん、全治1ヶ月ってはっきりと言ってた。
ってことは、全治1ヶ月のはずなんだけど。
でも、今の彼には傷1つない。
試しに骨折したと言われていた顔とあばら骨を触るが、痛がる様子はない。
「あんた、知らないのか……?」
「何を?」
「知らないで、俺を利用としたのかよ」
馬鹿じゃねぇの、と男は言う。
「俺は、ヴァンパイアだ。わかるか?」
「ヴァンパイア?」
私は首を傾げる。
「それすら知らないのか?」
「いや、知ってるけど」
ここは乙女ゲームの世界だ。
そして、私はそのゲームを知り尽くしている。
だからこそ、彼が自身をヴァンパイアと名乗る意味がわからなかったのだ。
なぜこの世界にヴァンパイアが?
それだと、世界観違いすぎない?
でも、目の前の男が嘘をついているとは思えなかった。
「ねえ、名前は?」
「今さらかよ」
「いや、だって聞かないと。あなたをなんて呼べばいいかわかんないし」
「……ゼロ」
「ゼロ?」
「仲間にはそう呼ばれている」
「わかったわ。私の名前はヴァイオレットよ。よろしくね」
「知ってる。噂になってんだよ、あんたのこと」
ゼロはそう言って、さっさと歩き出した。
私は寝惚け眼を擦る。
「馬鹿。今は深夜だ」
「冗談に決まってんじゃん」
私は立ち上がり、ふらつく身体を安定させる。
「あなたに言われた通り、ちゃんとギルド登録してきたわよ」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
「うん……って、どこへ?」
「あんたがそれを決めるんだろうが。依頼は受けたのか?」
「あっ、忘れてた」
「はあ……」
男はため息をついた。
「とりあえず、移動するぞ。こんなところで寝てたら、お前襲われるぞ」
「そうね」
私は頷き、歩き出したところで、はたと気づいた。
「ちょっと待って」
「なんだ?」
先を行こうとしていた男が立ち止まって、振り返る。
「あなた、全治1ヶ月よね?」
私は目を凝らして、彼の姿を見つめる。
今の男の姿はどう見ても、昼にぼこぼこにされた人間のようには思えないくらい、ぴんぴんしている。
「ここも、ほらここも。怪我してるのも、全部治ってる」
この世界って、そんな簡単に怪我を治すことが出来るのだろうか。
いやでも、あのお医者さん、全治1ヶ月ってはっきりと言ってた。
ってことは、全治1ヶ月のはずなんだけど。
でも、今の彼には傷1つない。
試しに骨折したと言われていた顔とあばら骨を触るが、痛がる様子はない。
「あんた、知らないのか……?」
「何を?」
「知らないで、俺を利用としたのかよ」
馬鹿じゃねぇの、と男は言う。
「俺は、ヴァンパイアだ。わかるか?」
「ヴァンパイア?」
私は首を傾げる。
「それすら知らないのか?」
「いや、知ってるけど」
ここは乙女ゲームの世界だ。
そして、私はそのゲームを知り尽くしている。
だからこそ、彼が自身をヴァンパイアと名乗る意味がわからなかったのだ。
なぜこの世界にヴァンパイアが?
それだと、世界観違いすぎない?
でも、目の前の男が嘘をついているとは思えなかった。
「ねえ、名前は?」
「今さらかよ」
「いや、だって聞かないと。あなたをなんて呼べばいいかわかんないし」
「……ゼロ」
「ゼロ?」
「仲間にはそう呼ばれている」
「わかったわ。私の名前はヴァイオレットよ。よろしくね」
「知ってる。噂になってんだよ、あんたのこと」
ゼロはそう言って、さっさと歩き出した。
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