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第4章

謝罪

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「す、すみませんでした!」

「いいよ、いいよ。全然大丈夫だって」
  

 ああ、前にもこんなことあった気がする。
  

 私の早とちりにも、いい加減にして欲しいものだ。
  

 土の上で土下座をするわけにもいかないから、九十度いくかいかないかぐらいで謝る。

 ひたすら。
  

 目の前の御方の頭には、がっつりたんこぶが煌めいている。
  

 本当に申し訳ない。


 私が思いきり飛びかかった相手は、全く知らないおじさんだった。


 しかしどうも、私の想像していたような危ない人ではなかったらしい。


 持っていた棒を思いきり振り下ろしたときのあの表情は、困惑以外の何物でもなかった。

 不可抗力でたんこぶを作っても、特に私に対して暴言暴力を振るう様子はない。

 それどころか、

「驚かしてすまん……。知らない人が勝手に倉庫に入っていったかと思って」

 と、神妙そうに謝罪された。


 どうやら、私の方こそ危ない人だと思われていたらしい。


 そう気づいた途端、サーッと血の気が引き、それからはひたすらおじさんに頭を下げていた。

 
「君、そんなことより定食屋に住んでる子だろ?」

  気さくそうな中年男性は、私の謝罪を遮って話を変えた。

「えっ」

「そう言えば一度、会ったことあると思う」

「会った?」
  

 いつだ?
  

 エンジンふかして脳をフル回転させる。
  

 あ、そうか。

 思い出した。

「定食屋で確か」

「そうそうそうそう、思い出してくれた?」
  

 嬉しそうに私の肩を揺さぶる。

 痛い。
  

 雛子と買い物に行った日、彼女に久しぶりと言っていた男だ。

 この定食屋の常連客。


 だからこそ、定食屋の倉庫に足を踏み入れる変な女を不審に思い、ついてきたのだろう。


「挨拶しそびれていたね。改めてはじめま「高木さん!」
  
 
 慌てたような表情で、冬馬さんがやってきた。
  

 二人は顔を見合わせ、それからお辞儀をする。

「おお、冬馬くん。久しぶりだね。君の料理、ぜひまた食べに来るよ」

「お久しぶりです。よろしくお願いします」
  
 おじさんの方は笑顔、冬馬さんの方は相変わらずの仏頂面で、頭を下げる。
  

 冬馬さんはこちらを向いて、口早に言った。

「高木さん。ここは俺がするから、向こう行ってろ」
  
 
 向こうってどこへよ。


 指示が抽象的過ぎて、何をすれば良いのかわからない。


「いえ、これくらい運べますよ」
  

 腕まくりして、無い力こぶを無理やり作った。
  
 
 にこやかに男性も参加する。


「俺も手伝うから、心配しないでいいよ。冬馬くん」

「ええっ。でも」

「大丈夫だって。さっきのお詫びだよ」


 おじさんは私に微笑みかける。


 対して、冬馬さんはとても機嫌が悪そうだ。

 鋼で出来た鬼瓦を被っているみたいである。
  

「高木さん、ほら早く。邪魔」


 その言い方に少しイラっときたが、わざわざその指示を拒否する理由も私にはなかった。

「わかりました」

  私は冬馬さんの空気に毒されて、少し素っ気なくそう言った。


  一連のやりとりを見ていたおじさんは、残念そうな表情で、

「えー。真琴ちゃんと仲良くなれると思ったのに」

  と言っていた。

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