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第1章

次の日

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  まあ高いとなんの言いつつも、あれならそれくらい払ってもおかしくない。


 だって、美味しいから。


 しかし高い。

 毎食にそんなに金かけてらんない。


 ということで、食事の後の今後の話し合いの中冬馬さんと交渉し、一食五百円以内に収めてもらうことにした。


 これならまあまあ良心的お値段だが、

「おかげで良いもん作れねぇ」

 と、冬馬さんはぶつぶつ言っていた。


 それ以上かけると家賃払えないと脅しをかけてようやく黙ってもらったのだ。


 ついでにお風呂や洗濯機などの使う順番と時間、掃除当番を決める。


 その辺に関しては、割とスムーズに決まった。


 まあ、その辺は取り立てて言うことでもないので、割愛する。


 次の日、つまり家が燃えて初の日曜日は、雛子と連れ立って買い物に出かけた。
  

 いやーもう本当友達という存在がいてくれるだけでありがたい。

 良い寝床貸してくれるし、買い物には付き合ってくれるし。


 しかし家族や男よりも、女友達の方が信頼できるって一体なんなんだろう。
  

 必要なものをリストアップした紙を持ち歩き、一昨日着ていた唯一の余所行きを着る。


 買わなきゃいけないものは、服に日用品。

 今のところそれくらいだろう。
  

 出費が増え続け、私の財布と口座は悲鳴を上げているが、借金するのは私の性にあわない。
  

 できるだけ安いところをと、可愛いお店屋さんが建ち並ぶ大型ショッピングモールで血眼になって探し歩いていると、隣にいた雛子は私に小声で耳打ちした。

「ねぇ、どうだった?」

 
 どうだったとはなんのことだ。

 わかっているとはいえ、わかった体で話を進めるのは癪だった。


「どういうこと?」

「どういうことって、うちのお兄ちゃんとあんたの同棲よ。順調?」

「同棲じゃなくて同居ね。まあまあよ。お兄様、割と2いい人そうで良かった」

「あらそう? お兄ちゃんをいい人なんて言う人、初めてよ」


 ああ……。
  
 納得した。

 見た目からして、人にしか見えないからね。

「ご飯作ってくれるから、いい人でしょ」

「あんた……。食べ物にしか興味ないのね、本当」
  

 そう言わないでよ雛子。

 今は食にしか興味ないだけ。
  

 呆れた雛子と一緒に洋服、日用品を買い占めていく。

 食器も借りるのは申し訳ないので、可愛くて安いものを何枚も。


 その間にどんどん紙袋の数が増えていき、万年運動不足の腕がプルプルと震える。

「お兄ちゃんに、荷物持ちしてもらえば良かったね」

「いや、申し訳ないでしょ。そんなの」

 なんて二人で言い合っていると、知った顔が目の前にちらついた。


「ねぇ、マコ」

「うん」

「あれさ、ヒステリックババアだよね」

「うん」


 ヒステリックババアこと松井さんが店内で洋服をじっと見つめている。

 その横で、営業スマイルの店員さんが何やら話しかけていた。

「へぇ、あの人も結構可愛いとこあんだねー」


 雛子のいいところは、ここで、

「うわ、まじでねーよ。あんな服似合うと思ってんの?」

 と言わないところだ。


 いくら松井さんを苦手とはいえ、人を侮蔑することはしない。

 まあ、ヒステリックババアって言っちゃってる時点でアレかもしれないけど。


 話を戻して、松井さんが店員さんを軽く無視しつつ真剣な表情で吟味している衣服は、いわゆる姫系である。


 しかし色味は結構落ち着いているので、私たちぐらいの年齢でも身に着けられそうな範疇だった。


 雛子の言う通りだ。

 可愛い趣味をしている。


「よし、マコ。話しかけるのよ」


 突然、とんでもないことを言い出す雛子。

「いや、無理でしょ。何言ってんの?」

 全力で首を横に振る。

「何言ってんのよ。仲良くなるチャンスじゃない! こうやって話しかければ、松井さんも態度を改めてくれるかもよ」

「そ、それはそうだけど」

「ほら、じゃあ行くよ!」

「あっ、ちょっと!」


 私の制止を聞かず、雛子は松井さんのもとへ走ってゆく。


 嫌な予感がした。


 雛子が松井さんに笑顔で話しかけ、まさかそんな事態が起こるとは思ってもみなかったらしい彼女は赤くなったり青くなったりを繰り返す。

 立ち尽くす私に向かって、無情にも指さして微笑する雛子。


 私は戦慄する。


 松井さんは、鬼のような形相で私を睨みつけていた。

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