8 / 46
第1章
次の日
しおりを挟む
まあ高いとなんの言いつつも、あれならそれくらい払ってもおかしくない。
だって、美味しいから。
しかし高い。
毎食にそんなに金かけてらんない。
ということで、食事の後の今後の話し合いの中冬馬さんと交渉し、一食五百円以内に収めてもらうことにした。
これならまあまあ良心的お値段だが、
「おかげで良いもん作れねぇ」
と、冬馬さんはぶつぶつ言っていた。
それ以上かけると家賃払えないと脅しをかけてようやく黙ってもらったのだ。
ついでにお風呂や洗濯機などの使う順番と時間、掃除当番を決める。
その辺に関しては、割とスムーズに決まった。
まあ、その辺は取り立てて言うことでもないので、割愛する。
次の日、つまり家が燃えて初の日曜日は、雛子と連れ立って買い物に出かけた。
いやーもう本当友達という存在がいてくれるだけでありがたい。
良い寝床貸してくれるし、買い物には付き合ってくれるし。
しかし家族や男よりも、女友達の方が信頼できるって一体なんなんだろう。
必要なものをリストアップした紙を持ち歩き、一昨日着ていた唯一の余所行きを着る。
買わなきゃいけないものは、服に日用品。
今のところそれくらいだろう。
出費が増え続け、私の財布と口座は悲鳴を上げているが、借金するのは私の性にあわない。
できるだけ安いところをと、可愛いお店屋さんが建ち並ぶ大型ショッピングモールで血眼になって探し歩いていると、隣にいた雛子は私に小声で耳打ちした。
「ねぇ、どうだった?」
どうだったとはなんのことだ。
わかっているとはいえ、わかった体で話を進めるのは癪だった。
「どういうこと?」
「どういうことって、うちのお兄ちゃんとあんたの同棲よ。順調?」
「同棲じゃなくて同居ね。まあまあよ。お兄様、割と2いい人そうで良かった」
「あらそう? お兄ちゃんをいい人なんて言う人、初めてよ」
ああ……。
納得した。
見た目からして、そういう人にしか見えないからね。
「ご飯作ってくれるから、いい人でしょ」
「あんた……。食べ物にしか興味ないのね、本当」
そう言わないでよ雛子。
今は食にしか興味ないだけ。
呆れた雛子と一緒に洋服、日用品を買い占めていく。
食器も借りるのは申し訳ないので、可愛くて安いものを何枚も。
その間にどんどん紙袋の数が増えていき、万年運動不足の腕がプルプルと震える。
「お兄ちゃんに、荷物持ちしてもらえば良かったね」
「いや、申し訳ないでしょ。そんなの」
なんて二人で言い合っていると、知った顔が目の前にちらついた。
「ねぇ、マコ」
「うん」
「あれさ、ヒステリックババアだよね」
「うん」
ヒステリックババアこと松井さんが店内で洋服をじっと見つめている。
その横で、営業スマイルの店員さんが何やら話しかけていた。
「へぇ、あの人も結構可愛いとこあんだねー」
雛子のいいところは、ここで、
「うわ、まじでねーよ。あんな服似合うと思ってんの?」
と言わないところだ。
いくら松井さんを苦手とはいえ、人を侮蔑することはしない。
まあ、ヒステリックババアって言っちゃってる時点でアレかもしれないけど。
話を戻して、松井さんが店員さんを軽く無視しつつ真剣な表情で吟味している衣服は、いわゆる姫系である。
しかし色味は結構落ち着いているので、私たちぐらいの年齢でも身に着けられそうな範疇だった。
雛子の言う通りだ。
可愛い趣味をしている。
「よし、マコ。話しかけるのよ」
突然、とんでもないことを言い出す雛子。
「いや、無理でしょ。何言ってんの?」
全力で首を横に振る。
「何言ってんのよ。仲良くなるチャンスじゃない! こうやって話しかければ、松井さんも態度を改めてくれるかもよ」
「そ、それはそうだけど」
「ほら、じゃあ行くよ!」
「あっ、ちょっと!」
私の制止を聞かず、雛子は松井さんのもとへ走ってゆく。
嫌な予感がした。
雛子が松井さんに笑顔で話しかけ、まさかそんな事態が起こるとは思ってもみなかったらしい彼女は赤くなったり青くなったりを繰り返す。
立ち尽くす私に向かって、無情にも指さして微笑する雛子。
私は戦慄する。
松井さんは、鬼のような形相で私を睨みつけていた。
だって、美味しいから。
しかし高い。
毎食にそんなに金かけてらんない。
ということで、食事の後の今後の話し合いの中冬馬さんと交渉し、一食五百円以内に収めてもらうことにした。
これならまあまあ良心的お値段だが、
「おかげで良いもん作れねぇ」
と、冬馬さんはぶつぶつ言っていた。
それ以上かけると家賃払えないと脅しをかけてようやく黙ってもらったのだ。
ついでにお風呂や洗濯機などの使う順番と時間、掃除当番を決める。
その辺に関しては、割とスムーズに決まった。
まあ、その辺は取り立てて言うことでもないので、割愛する。
次の日、つまり家が燃えて初の日曜日は、雛子と連れ立って買い物に出かけた。
いやーもう本当友達という存在がいてくれるだけでありがたい。
良い寝床貸してくれるし、買い物には付き合ってくれるし。
しかし家族や男よりも、女友達の方が信頼できるって一体なんなんだろう。
必要なものをリストアップした紙を持ち歩き、一昨日着ていた唯一の余所行きを着る。
買わなきゃいけないものは、服に日用品。
今のところそれくらいだろう。
出費が増え続け、私の財布と口座は悲鳴を上げているが、借金するのは私の性にあわない。
できるだけ安いところをと、可愛いお店屋さんが建ち並ぶ大型ショッピングモールで血眼になって探し歩いていると、隣にいた雛子は私に小声で耳打ちした。
「ねぇ、どうだった?」
どうだったとはなんのことだ。
わかっているとはいえ、わかった体で話を進めるのは癪だった。
「どういうこと?」
「どういうことって、うちのお兄ちゃんとあんたの同棲よ。順調?」
「同棲じゃなくて同居ね。まあまあよ。お兄様、割と2いい人そうで良かった」
「あらそう? お兄ちゃんをいい人なんて言う人、初めてよ」
ああ……。
納得した。
見た目からして、そういう人にしか見えないからね。
「ご飯作ってくれるから、いい人でしょ」
「あんた……。食べ物にしか興味ないのね、本当」
そう言わないでよ雛子。
今は食にしか興味ないだけ。
呆れた雛子と一緒に洋服、日用品を買い占めていく。
食器も借りるのは申し訳ないので、可愛くて安いものを何枚も。
その間にどんどん紙袋の数が増えていき、万年運動不足の腕がプルプルと震える。
「お兄ちゃんに、荷物持ちしてもらえば良かったね」
「いや、申し訳ないでしょ。そんなの」
なんて二人で言い合っていると、知った顔が目の前にちらついた。
「ねぇ、マコ」
「うん」
「あれさ、ヒステリックババアだよね」
「うん」
ヒステリックババアこと松井さんが店内で洋服をじっと見つめている。
その横で、営業スマイルの店員さんが何やら話しかけていた。
「へぇ、あの人も結構可愛いとこあんだねー」
雛子のいいところは、ここで、
「うわ、まじでねーよ。あんな服似合うと思ってんの?」
と言わないところだ。
いくら松井さんを苦手とはいえ、人を侮蔑することはしない。
まあ、ヒステリックババアって言っちゃってる時点でアレかもしれないけど。
話を戻して、松井さんが店員さんを軽く無視しつつ真剣な表情で吟味している衣服は、いわゆる姫系である。
しかし色味は結構落ち着いているので、私たちぐらいの年齢でも身に着けられそうな範疇だった。
雛子の言う通りだ。
可愛い趣味をしている。
「よし、マコ。話しかけるのよ」
突然、とんでもないことを言い出す雛子。
「いや、無理でしょ。何言ってんの?」
全力で首を横に振る。
「何言ってんのよ。仲良くなるチャンスじゃない! こうやって話しかければ、松井さんも態度を改めてくれるかもよ」
「そ、それはそうだけど」
「ほら、じゃあ行くよ!」
「あっ、ちょっと!」
私の制止を聞かず、雛子は松井さんのもとへ走ってゆく。
嫌な予感がした。
雛子が松井さんに笑顔で話しかけ、まさかそんな事態が起こるとは思ってもみなかったらしい彼女は赤くなったり青くなったりを繰り返す。
立ち尽くす私に向かって、無情にも指さして微笑する雛子。
私は戦慄する。
松井さんは、鬼のような形相で私を睨みつけていた。
10
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい
どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。
記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。
◆登場人物
・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。
・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。
・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる