4 / 46
第1章
救世主
しおりを挟む
「あんた……。本当災難ね」
心底呆れ返った様子の雛子。
本当災難だ。
誰か、どうして私がこんな目に会うのか説明して欲しい。
私はとんでもない悪いことをしたの?
知らない間にどこかの村焼き払ったりしたのかなぁ。
「ヒステリックババアに目をつけられたり、結婚を約束していた男に逃げられたり、挙句の果てに火事で家を消失したり……。もう本当、哀れね。この次は仕事なくなるんじゃない?」
「それは絶対嫌」
雛子に運転してもらっている家庭用自動車内の会話である。
土曜日なのに酷く物々しく沈んでいるのは、この空間の二分の一を占めている私のせいだ。
こんなことが立て続けに起こったせいで、雛子が気を使って言ってくれた冗談も予言にしか聞こえない。
マジで。
仕事失うのだけは、本当洒落になんないから。
「まあでもさ、人生山あり谷ありってよく言うじゃん。確かにあんたは今どん底中のどん底だよ。でも、このことわざによれば、これからのあんたはもう山登りしかないんだわ。ってことは、これからいいことが沢山あるんじゃない?」
「……雛子もそう思うのね」
「『も』?」
「ううん、なんでもない」
雛子は、かつての私と同じことを思っているみたい。
しかし私と彼女の違いは、張本人であるかどうか。
「あそこにある定食屋の二階、貸してあげるからね。感謝してよ」
なんとなく会話をストップさせ、しばらくの間ぼんやり揺れていると、目的地に着いたのか雛子がそう言った。
左手の窓の外を見つめると、確かに定食屋だ。
彼女の家は定食屋である。
かつてはあそこに住んでいたらしいが、
「こんな食べ物の匂いしかしないところ、嫌よ」
という雛子の一言で、家族まるまる近くのマンションに引っ越したらしい。
「先住民族が一人いるけど、気にしないで。程よくそいつと仲良くすることが、新参者の努めよ」
「わかったわ」
見知らぬ同居人がいるのはちょっと気まずいが。
背に腹は代えられない。
せっかく、雛子家族の好意で部屋を用意してくれたんだし。
「その人って、雛子のお父様のお弟子さん? それとも雛子の友達?」
「……まあ。そんなとこね。気難しいけど、良い奴だから喧嘩ないでね。もちろん部屋は別々だから」
変な誤魔化しは気になったものの、指摘するほどのものじゃない。
「ありがとー。雛子、マジ神様救世主」
「気にしなくて良いわ。困ったときはお互い様じゃないの」
雛子は私に向かってぱっちりウィンクをする。
「今度私が困ったときは、ちゃんと助けてくれれば良いから」
「やーん。惚れそう」
心底呆れ返った様子の雛子。
本当災難だ。
誰か、どうして私がこんな目に会うのか説明して欲しい。
私はとんでもない悪いことをしたの?
知らない間にどこかの村焼き払ったりしたのかなぁ。
「ヒステリックババアに目をつけられたり、結婚を約束していた男に逃げられたり、挙句の果てに火事で家を消失したり……。もう本当、哀れね。この次は仕事なくなるんじゃない?」
「それは絶対嫌」
雛子に運転してもらっている家庭用自動車内の会話である。
土曜日なのに酷く物々しく沈んでいるのは、この空間の二分の一を占めている私のせいだ。
こんなことが立て続けに起こったせいで、雛子が気を使って言ってくれた冗談も予言にしか聞こえない。
マジで。
仕事失うのだけは、本当洒落になんないから。
「まあでもさ、人生山あり谷ありってよく言うじゃん。確かにあんたは今どん底中のどん底だよ。でも、このことわざによれば、これからのあんたはもう山登りしかないんだわ。ってことは、これからいいことが沢山あるんじゃない?」
「……雛子もそう思うのね」
「『も』?」
「ううん、なんでもない」
雛子は、かつての私と同じことを思っているみたい。
しかし私と彼女の違いは、張本人であるかどうか。
「あそこにある定食屋の二階、貸してあげるからね。感謝してよ」
なんとなく会話をストップさせ、しばらくの間ぼんやり揺れていると、目的地に着いたのか雛子がそう言った。
左手の窓の外を見つめると、確かに定食屋だ。
彼女の家は定食屋である。
かつてはあそこに住んでいたらしいが、
「こんな食べ物の匂いしかしないところ、嫌よ」
という雛子の一言で、家族まるまる近くのマンションに引っ越したらしい。
「先住民族が一人いるけど、気にしないで。程よくそいつと仲良くすることが、新参者の努めよ」
「わかったわ」
見知らぬ同居人がいるのはちょっと気まずいが。
背に腹は代えられない。
せっかく、雛子家族の好意で部屋を用意してくれたんだし。
「その人って、雛子のお父様のお弟子さん? それとも雛子の友達?」
「……まあ。そんなとこね。気難しいけど、良い奴だから喧嘩ないでね。もちろん部屋は別々だから」
変な誤魔化しは気になったものの、指摘するほどのものじゃない。
「ありがとー。雛子、マジ神様救世主」
「気にしなくて良いわ。困ったときはお互い様じゃないの」
雛子は私に向かってぱっちりウィンクをする。
「今度私が困ったときは、ちゃんと助けてくれれば良いから」
「やーん。惚れそう」
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる