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祭り
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私たちの船は、ゆっくりと時間をかけて港に上陸した。
その間、どんどんと近づいてくる港の姿。
船着き場に、ぞくぞくと集まる人々。
彼らは一様にして、何かを心待ちにしている様子だ。
「なんじゃありゃ」
と、船長。
「観光地にでもなったのか?」
観光地になったにしては、母国の港には見せ場がない。
ただの漁港である。
「あれ、もしかして」
トムが言った。
「もしかしてですけど、俺たちの迎え、とか……」
「「なわけねぇだろ(ないでしょ)」」
私と船長の言葉が重なる。
「いや、わかってますけど、でも」
と、トムは続ける。
「ほら、お嬢さんが公爵様に手紙を送ったじゃないですか。あれで盛大に帰りを喜んでくれているとか」
「私の迎え? ないない」
私は笑う。
「だって私、ただの令嬢よ。公爵家だけど」
確かに、2年前の私であれば、そういう状況になる可能性はあった。
第一王子の婚約者であったころなら。
だが、今私はただの貴族の1人。
しかも、旅行帰りである。
そんなのをわざわざ大勢の人が迎えに行っていたら、身体がいくつあっても足りない。
「まあ、確かにそうですね」
「そうそう。変なこと言わないでよ」
あははははと、船員たちと一緒に笑い合う。
――そう。
この時までは、まさかトムの推理が当たっていたなんて1ミリも思っていなかった。
船着き場に到着し、船の錨を鎮める。
船員たちが入り口から板を置いて、陸まで道を作った。
「それじゃあ、お嬢さん」
船長が恭しく手を差し出す。
「お手をどうぞ。港までお送りいたします」
「あら、殊勝ね」
私はくすくす笑いながら、その手を取った。
船長にエスコートされて、甲板から上陸する。
母国の大地だ。
久しぶりだな、なんてちょっと感慨深く思っていたら。
「「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」」
突然、港に集まっていた人々が一斉に叫び、同じタイミングで、
ヒューヒュルヒュルヒュル……。
バーン!
と、大きな花火がいくつも打ち上げられた。
その間、どんどんと近づいてくる港の姿。
船着き場に、ぞくぞくと集まる人々。
彼らは一様にして、何かを心待ちにしている様子だ。
「なんじゃありゃ」
と、船長。
「観光地にでもなったのか?」
観光地になったにしては、母国の港には見せ場がない。
ただの漁港である。
「あれ、もしかして」
トムが言った。
「もしかしてですけど、俺たちの迎え、とか……」
「「なわけねぇだろ(ないでしょ)」」
私と船長の言葉が重なる。
「いや、わかってますけど、でも」
と、トムは続ける。
「ほら、お嬢さんが公爵様に手紙を送ったじゃないですか。あれで盛大に帰りを喜んでくれているとか」
「私の迎え? ないない」
私は笑う。
「だって私、ただの令嬢よ。公爵家だけど」
確かに、2年前の私であれば、そういう状況になる可能性はあった。
第一王子の婚約者であったころなら。
だが、今私はただの貴族の1人。
しかも、旅行帰りである。
そんなのをわざわざ大勢の人が迎えに行っていたら、身体がいくつあっても足りない。
「まあ、確かにそうですね」
「そうそう。変なこと言わないでよ」
あははははと、船員たちと一緒に笑い合う。
――そう。
この時までは、まさかトムの推理が当たっていたなんて1ミリも思っていなかった。
船着き場に到着し、船の錨を鎮める。
船員たちが入り口から板を置いて、陸まで道を作った。
「それじゃあ、お嬢さん」
船長が恭しく手を差し出す。
「お手をどうぞ。港までお送りいたします」
「あら、殊勝ね」
私はくすくす笑いながら、その手を取った。
船長にエスコートされて、甲板から上陸する。
母国の大地だ。
久しぶりだな、なんてちょっと感慨深く思っていたら。
「「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」」
突然、港に集まっていた人々が一斉に叫び、同じタイミングで、
ヒューヒュルヒュルヒュル……。
バーン!
と、大きな花火がいくつも打ち上げられた。
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