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船長

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「失礼するわ」


 私は船長室のドアをノックし、中に入る。


「おう、お嬢さん。来てくれたか」


 部屋の中央部にある大きな書斎机に座っていた大柄な男が、軽く手を挙げた。

「とりあえず、そこに座ってくれ」




 ギャリー船長は、もともと私の父と親しい間柄だった。


 庶民である船長と公爵の父が一体どういう経緯で出会い、仲良くなったのかはよく知らない。

 だけど、船長はかなり父に信頼されているらしく、実際公爵家が所有する船の長として、世界各国を回って貿易に貢献しているというわけだ。


 両親が船旅を許してくれたのも、船長がいたからこそだろう。


 若いのに優秀で、船員の命を守ることの出来る大きな器を持つのが、このギャリーという男だ。


 私も両親同様彼を気に入っており、この2年間はずっと彼を上司として慕っていた。




 船長は、私を木製の椅子に誘導する。

 だが私はそれを断り、早速本題に入った。

「その件ですが、お断りさせていただきますわ」

「その件って……。まだ俺、何も言ってないんだけど」

 ため息をつく船長。

「いつもの話でしょう?」

「……ああ、まあ」

「なら、お断りです」

「そこをなんとか」

「嫌です」

「公爵様からのお達しなんだよ」

「駄目ったら駄目です」

「うーん……」


 参ったなあと、頭を掻く船長。


 ここしばらく、ずっと押し問答が続いている。

 船長も父の命令のせいで引き下がることは出来ないし、私だって私の意思があるから絶対に嫌だ。


「……どうしても駄目か?」

 船長はとうとう、上目遣いで懇願し始めた。

「頼む。後生だ」

「嫌です!」


 私は断固拒否する。

「公爵令嬢に戻るのは絶対に嫌! 私は、船員としてここで働くわ」
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