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プロローグ

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 私――公爵令嬢メリッサはその日、人生最大の失恋をした。


 今でもその日のことを思い出すと、不快な気分になる。

 それくらい私にとっては、黒歴史以外の何物でもなかった。


 あのころの私には、婚約者がいた。

 第一王子のランドルフ殿下。


 優しく聡明で、美しい容姿。

 麗しいその姿は、まさしく少女の憧れである「王子」そのものだった。


 私はそんな彼を、とても愛していた。

 そんな彼と婚約者になれて、とても嬉しかった。


 毎日幸せだった。


 ――しかし彼は、そうじゃなかったみたいだ。

 後で色々考えれば、それはそうだと思うくらい、あのころの私は酷かった。


 恋は盲目とはよく言ったものだが、私は完全に恋の病に侵されていたのだろう。


 まるでストーカーのように彼につきまとい、彼に近づくあらゆる女を排除しようとした。


 すべては彼と、彼との未来のため。

 そう思っていた。


 だけどそれは全部私のためで、その結果、私は最愛の人を失うことになったのだ。


 私は殿下から、婚約破棄を申し出された。

「頼むから、婚約破棄をしてほしい」

 真っ白になった私に向かって、彼は申し訳なさそうに言う。


「君とは正直、やっていける気がしない――すまないが、別れてくれ」


 彼の隣にいたのは、麗しい令嬢。


 私が何度排除しようとしても、それを全く意に介さなかった女だった。


 私は察した。

 彼は、この女と一緒に生きていきたいのだと。


 文句を言いたかった。

 叫びたかった。


 この女よりも、自分の方が相応しい。

 自分の方が、殿下を愛していると。


 だけど、私は言えなかった。

 私は本気で、殿下を愛していたのだ。


 その殿下から初めてお願いされたことだった。


「別れてくれ」


 私は彼の意思に従うことにした。


 愛する彼のために、私が出来る最後のことは、それだったのだ。

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