ヤンデレ王子とだけは結婚したくない

第1章

会話

　無難な会話。

　無難な会話。

　無難な会話……。


　無難な会話？


　無難な会話って何？

　なんだっけ、それ。




　あの後、マクシミリアン殿下を化け物ルートから遠ざけ、なおかつ念のために婚約破棄してもらう方向性で色々考えた結果。


　逆に、彼と仲良くすれば良いのではないのかという結論に至った。


　もちろん婚約者としてではなく、友人的ポジション。


　殿下とは友達として仲良くなり、その上で「お願い」する感じで。


　名付けて、「殿下、私たちって婚約者って言うよりもお友達みたいな感じですわね。それならいっそ婚約破棄して、友達としてこれからも仲良くしていきませんか？　殿下だって、近い将来好きな人が出来るかもしれませんし」作戦。


　以下、お友達作戦として明記。


　これなら、なんとか婚約破棄にまで漕ぎつけられるんじゃないだろうか。


　もちろん、そこに行きつくためには様々な労力がかかるだろう。

　だけど、将来自分が殺されないためになら、私はなんだってやる。


　よし、お友達作戦だ。


　まずは殿下と仲良くなって、「お友達」扱いされるように頑張ろう！




　……なんて思っていたが。


　私は、目の前の黙ったままの少年を盗み見る。


　今は、婚約者としての仲を深めるための、定期的なお茶会に参加している。


　お茶会と言っても、参加しているのは私と殿下の2人だけ。

　2人きりで、黙ったままお茶を飲んでいる。


　そう、黙ったままだ。


　会話にならない。


　マクシミリアン殿下は、全く私と言葉のキャッチボールを交わしてくれないのだ。


　例えば私が、

「今日は良い天気ですね」

　と会話を振ると、

「そうだね」

　とだけ返ってくる。


「普段は何をしていらっしゃるんですか？」

「勉強」

「どんな勉強を？」

「普通の勉強」

「そ、そうですか……。それ以外には、休みの日は何をしているんですか？」

「何もしてない」


　こんな具合だ。


　コミュニケーション能力が下手過ぎるというか、多分彼は私と仲良くする気が一切ないのだろう。

　会話を頑張ろうという気が一切見えない。


　無難な会話。

　無難な会話をしたい。


　この時間が、本当に苦痛で仕方がない。