好きだから虐めてしまったなんて言われても、今更すぎて困るんですけど

小倉みち

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話③

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 兄が手紙を読んでいる間。


 それは、今までで一番長く感じる時間だった。


 正直、10分かそこらだったと思う。


 でも、私にとっては1日に感じられた。

 それくらい、いたたまれなかったのだ。


「……」


 無言でセオドアの手紙を読み終わった兄は、ゆっくりとした動作で手紙を封筒に入れた。

「これは、どういうことだ?」

 アルフレッドお兄様は言った。

「……手紙に書かれてある通りですわ」

「セオドアがお前に何かしたのか?」

「はい」

「それは……。セオドアがお前と仲良くしたくてやったことなのか?」

「……はい?」

「手紙にはそう書かれてあるが、それは本当か?」


 ブチッ。


 少し落ち着いていた苛立ちが、兄の一言で再沸騰する。


「……そんなわけあるか!」


 私は大声で叫んだ。

「あのクソがそんな殊勝なこと本当に思ってるわけないでしょ!? 馬鹿なの!?」


「い、いや……」

 
 大人しい妹の発狂シーンに怯える兄。

「わ、悪い。そういう意味じゃ……」


「セオドアはね、散々私を虐めてきたのよ。大切な物を壊されたり、髪の毛引っ張られたり、ブスだのなんだのって……。挙句の果てには、あいつのせいで大怪我を負ったのよ、私!」

「あ」


 お兄様は遠い目をした。


 心当たりがあるようだ。


「そんなやつのせいで私は引きこもりになった! 人生めちゃくちゃにされたのよ! それなのに、なのに、あの男は……っ」


 あまりの怒りに、ダムが決壊したかのごとく涙が溢れてくる。


 もうどうしようもないのだ。


 自分でもこの感情をどうすれば良いのかわからない。


 それほど、私は今までずっと我慢してきた――。


「悪かった」

 
 号泣する私の頭に、兄はたどたどしく自分の手を乗せる。


「……えっ。何?」

「ごめん。ごめんな」


 どうやら、私の頭を撫でているようだ。

 あまりにも下手くそで、何をしているのか全くわからなかった。


「本当にごめん」


 顔を上げると、兄は今にも泣きだしそうな顔で何度も私に謝った。
 
 
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