好きだから虐めてしまったなんて言われても、今更すぎて困るんですけど

小倉みち

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話②

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 お兄様の部屋には久しぶりに入ったが、相変わらず質素な雰囲気だ。


 昔からゴテゴテしたものが嫌いで、嗜好品は、

「興味がない」

 と、ばっさり切り捨てていた。


 その剣術馬鹿……もといアルフレッドお兄様は、私たちを部屋に招き入れると扉を閉めた。


 一瞬、気まずい沈黙が流れる。


「で、なんの用だ? 手短に話してくれ」

 お兄様に急かされた私は、助けを求めてカタリナに視線を向ける。


 しかしカタリナは首を横に振り、私に話すよう促した。


「早くしてくれ」


 アルフレッドお兄様はため息をついた。

「お前をいつまでも待っている時間が俺にあるとでも?」


 ああ、やっぱり苦手だ。


 私は泣きそうになった。


 兄に急かされ、頭が真っ白になったまま私は口を開く。


「あ、あ、あ、あ、あの……」

「なんだ?」

「こ、婚約者の件についてで」

「婚約者? 俺のか?」

「いえ、お嬢様の婚約者様です」


 カタリナが助け舟を出してくれる。

「セオドアか? 彼がどうしたんだ?」

「セ、セオドアが、セオドアが、あの人が」

「お嬢様、落ち着いてください」


 カタリナに背中を撫でられる。


「深呼吸」


 彼女に言われた通り、大きく吸って吐く。


 危ない。

 危うく過呼吸が再発するところだった。


「セオドアがなんだ? 何かあったのか?」


  私の様子が尋常でないことを察したお兄様は、先ほどよりは真剣な表情で私を見つめる。

「この手紙を読んでください」


 私は出来るだけ感情が爆発しないよう、努めて機械的な声を発した。

「これは?」

「セオドアから私に送った手紙です」

「婚約者からの手紙を、いくらなんでも兄に見せるというのは――」

「私からもお願いします、アルフレッド様」

 と、カタリナ。

「お嬢様が、10年以上もの間あの方に何をされてきたのかを聞いてください」

「……」


 お兄様は黙ったまま私から手紙を受け取った。

「わかった。見させてもらおう」

「よろしくお願いいたします」


 
 
 
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